【書方箋 この本、効キマス】第21回 『もう一度、プロ野球選手になる。』 新庄 剛志 著/熊本 比奈
極めるよりも“魅せる”
2019年に観たドキュメンタリー映画で、北海道日本ハムファイターズがかつては不人気なチームだったこと、それを払拭したのが新庄剛志氏だと知った。彼がどんな思考で物事に取り組んでいるのかに興味が湧き、彼の書籍をすべて購入したなかで、とくに私に影響を与えたのが本書だ。現役を一度退いた47歳から再びプロ野球選手への復帰をめざした真相や、数々の無謀な挑戦を実現させてきたからこそ語れる「夢の叶え方」が記されている。人生を楽しみながら、やりたいことをすべて実現させる生き様に憧れた。
そんな私は、今年28歳を迎えるバレーボール選手だ。福岡県福智町をホームタウンとし、今年Vリーグへの参入が決まった「カノアラウレアーズ福岡」のキャプテンをしている。
本書の「無謀なチャレンジと世界一の守護論」と題する章には、一般的なアスリートとは異なる考え方が綴られていて衝撃を受けた。普通なら、その競技をどのように極めるかを考えることが多いと思う。しかし、彼は自分自身やチームをどのように「魅せるか」というマーケティング思考を意識している。彼の振舞いを見たファンは当然、熱狂する。
その好例が、47歳から再スタートするという計算されたストーリーだ。自分の人生をエンターテイメント化していることが羨ましいと感じ、私も自分の人生をエンタメ化してファンの皆様に楽しんでもらいたいと考えるようになった。
地元・福岡でVリーグのチームをつくりたいとの夢を叶えた今の私にとって、無謀なチャレンジとは何だろうか?28歳という年齢を考えた時、長くても残り4~5年しかプレーできない。選手としての目標は3年でチームを「V1リーグ」(Vリーグの最上位クラス)へ昇格させることだ。しかし、人生の目標となると、答えは出なかった。バレーボールを取ったら何が残るのか?普通に就職するのも1つの選択肢だが、どうもしっくりこない。
そんな矢先に転機が訪れた。チームがスポンサー様だけに頼るのではなく、自らも鰻の養殖事業で稼ぐとの計画を立てた。それに向けてまず、鰻料理店を開いてマーケティングを行おうとしていた。
私はチームに「社長にしてほしい」と願い出た。そして先月、鰻事業の会社の社長への就任を公表し、開店をめざし奔走している。
社長に名乗り出たのは、選手が引退後、もっとこのチームにかかわる環境をつくりたかったからだ。選手でありながら自分たちで事業を立ち上げることは、貴重な体験だ。そして、選手を続けながら、社長を両立させる「デュアルキャリア」の実現が、私の人生をエンターテイメント化させることの答えだった。
引退後にセカンドキャリアをめざすのではなく、現役時代のうちからもう1つのキャリアを築く。新しいアスリートの未来を自分たちの手で切り開きたい。この無謀なチャレンジを必ず成功させる。本書がなければその第一歩を踏み出すことはできなかっただろう。
(新庄 剛志 著、ポプラ社 刊、税込1650円)
選者:バレーボール選手兼会社経営者 熊本 比奈(くまもと ひな)
1995年、福岡県生まれ。東九州龍谷高校から14年にトヨタ車体クインシーズに入団。その後、ブレス浜松を経て、21年に現チームへ移籍。今年6月、㈱MIRAiを登記する予定。
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