【主張】それなりの価値ある均衡割増率
厚生労働省が、興味ある試みを発表した(本紙2月24日付1面参照)。「均衡割増賃金率」の試算がそれ。これは「新たな労働投入に対して、雇用増によった場合の1時間当たり労働費用と、時間外の割増賃金がないという前提の下での既存従業員の時間外労働によった場合の1時間当たり労働費用をそれぞれ算出し、どれだけの割増賃金率があれば両者が均衡するか理論上試算した」もの。
業務量が増加したとき、新規採用するか、既存従業員の残業で賄うかを比べたものだが、平成24年の均衡割増賃金率は約47.1%で、これを上回れば新規採用の方がコスト的に有利というわけだ。まあ参考程度に過ぎないが、お役人も洒落たことをやるもんだと思われたムキもあろう。
わが国では、「労働投入量の調整の際に、労働者数の増減にかかる費用よりも時間外割増賃金の増減にかかる費用の方が安い」というのが定説。これに一石投じた形だが、ことは単純にいかない。
日本経済は、55~73年まで約20年間にわたって高度成長が続き、世界第2位にまで躍進した。ところが、その大きな理由として「高い貿易生産性は長時間労働によって支えられており、これはフェアな方法ではない」と先進各国から非難され、年間総実労働時間1800時間を早期に達成するようクギを刺されてしまった。したがって、新規採用と残業を比較するのは、若干の無理がある。国際比較したものをみると、01年の製造業生産労働者の年間総実労働時間は、日本の1948時間に対し、ドイツ1525時間、フランス1554時間との差は400時間にも上る。これは87年に労働時間法が大改正され、週40時間制が確立された後の数値であり、公約との乖離は見逃せない。ただし、昨年の総実は、1746時間と国際水準に達している(本紙2月17日付8面参照)。
均衡割増賃金率は、中小企業への割増率5割適用拡大に向けて行ったもの。算定に当たってのあい路は、不払残業の横行、年休消化率の低迷など不確定要素が多いことだが基礎的資料としての説得性は認めていいのではないか。