【主張】飲酒絡みの行政と裁判を考える

2014.04.28 【主張】
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 3月19日、東京地裁はNHKスペシャルの番組制作を請け負った制作会社スタッフが、中国でのロケ中に白酒(パイチュウ)の一気飲みを繰り返した後に死亡した事件で、遺族補償給付を認める判決をいい渡した。原告は男性の両親が渋谷労働基準監督署長の不支給処分を不服として、裁判で原処分取消しを求めていたもの。死亡したスタッフは、地方行政組織の幹部らとの会合に出席し、少なくとも10杯程度、口上を述べた後に一気飲みする「乾杯」と呼ばれる飲み方を繰り返したという。白酒はアルコール度数が50度以上の強い酒だ。

 日本人は世界の中でも最も酒に弱い体質といわれ、アセトアルデヒドが低濃度の状態であっても、約半数が酔っ払ってしまうらしい。黒人や白人がほとんどゼロであるのに比べ対照的である。中国通にいわせると、本場でもこの乾杯に参ってしまう者が多く、現在では「飲む振り」をすれば見逃されるようだ。判決では「撮影許可を得るために、好印象を与えようと勧められるまま乾杯に応じたもので、業務上災害」とした。

 労災認定に当たっては、アルコールを摂取するのは私的行為である、とするのが行政上の建前といっていい。労働基準法では、使用者は災害補償責任を負い、しかもこの責任は使用者の過失の有無を問わず刑罰をもって補償の履行を強制している。労災保険法は、使用者に代わって、労基法上の補償責任を担保するものとして設けられた。保険料は使用者が支払う仕組みであることから、法律上使用者に過大な責任を負わせることは不公平・不合理であるとの立場にある。飲酒絡みの事故が原処分(労基署長)段階で請求棄却されるのは当然のこと、というわけだ。

 もっとも、過労死認定基準が「同僚労働者を含む過重負荷」の括りから、時間外労働基準の重視に変わったため、「個人の負担」という労働者救済に移りつつある。使用者の負担軽減を重くみた「疑わしきは業務外」が、「業務上」へと180度転換した感も強い。使用者の残された道は、社内の安全衛生管理体制を見直し、強化するしかない。

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平成26年4月28日第2966号2面 掲載
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