【主張】先送りでも前途暗い特定派遣業
今国会に労働者派遣法改正法案が上程されたが、可決成立すれば来年4月1日から施行される。改正の主な内容は、期間制限がない専門26業務を廃止し、新たに個人単位と事業所単位の期間制限を設けるなどの3点だが、法案を審議した労働政策審議会の議論のなかで、業界を震撼させた「特定労働者派遣事業」については現行の届出制を廃止し、一般派遣事業と同じ許可制にすることだったが、3年の猶予期間を置くことになった。
特定派遣労働者は、派遣元が常時雇用する者のみで構成されることから、当初は安定的な就労環境に置かれているとし、届出制となったわけだが、実態は大きく異なる。
厚生労働省の派遣制度に関する研究会の議事録によれば「常時雇用といっても、いわゆる正社員ではなく、有期雇用の反復で良く、ルールの穴に落ちたような可能性があり特定派遣へ安易に流れている恐れがある」としている。事実、特定派遣は大部分がIT業界で占められ、システム開発や保守といった業務に大量の労働者が低コストで動員され、ブラック化しているのだそうだ。平成23年度の調査によると、事業者数は約6万3000と、一般労働者派遣の3倍以上もある。労働者数は一般の107万人に対し、特定は30万人に過ぎず、一事業所当たりの労働者数は54.1人対4.7人で、特定派遣は零細規模で占められており、就労環境は極めて悪い。
届出制が故に、中小企業も含めて多くのIT企業が特定派遣事業を営んでいるという実態があるようだ。これでは、派遣労働者の労働条件は二の次になっても致し方がないといえそう。緩和が主流の労働行政にあって、一刻を争う規制強化が必要な部分だ。
許可制になると、財産的基礎が必要になる。資産の総額から負債の総額を控除した額が、2000万円以上必要だし、事業資金として自己名義の現金・預金の額が1500万円以上なければならない。弱小特定事業が震撼するわけだ。3年先送りになっても、事業基盤が改善する見込みは薄い。業界内は、偽装請負への転換がうわさされているなど悲観論に支配されている。