【ひのみやぐら】巡視での「遠隔支援」進む
産業界の人手不足に対応するために、政府はデジタルトランスフォーメーション(DX)を重要政策に位置づけている。経団連では、「DX時代の労働安全衛生のあり方に関する提言」をまとめ、労働災害防止に向けたデジタル技術とデータの活用について指摘した(6月15日号ニュース欄既報)。
提言では、安全衛生パトロールのあり方を見直すよう要請している。特定元方事業者、産業医、衛生管理者、安全管理者による作業場所や事業場の巡視義務について、法が求める安全衛生水準の確保を前提に、ウェアラブルカメラなどを活用した遠隔での実施を可能とすべきとした。
ウェアラブルカメラは、身体に身につけて撮影ができるカメラのことで、頭部や作業服の胸ポケットなどに装着し、ハンズフリーで現場作業者が見ている映像を撮影できる。ただ撮影するだけでなく、リアルタイムで現場と会社事務所などがコミュニケーションをとることができ、映像と音声で現場の状況を即時共有し、事務所から正確な指示を送る「遠隔支援」により、離れた場所でも現場にいるような意思疎通が可能となるもの。
工場やオフィスならまだしも、建設業の安全衛生パトロールは、現場に向かうだけでも大変な作業だ。交通渋滞に巻き込まれたり、山岳地や沿岸など遠方の現場もある。限られた人員と時間のなかで、効率よく安全衛生パトロールを行うため注目されているのが、「リモート方式」だ。とりわけウェアラブルカメラを導入する企業が増えており、今号特集Ⅰでは、小柳建設とフジテックの先進事例を紹介している。
小柳建設では、取組みを開始したところ、パトロール回数が約37%アップし、書類の電子化で作業効率を高めた。現場を見る機会が増え、安全性が向上した。事務所にいる熟練技能者が映像を確認し、現場の若手技術者に指示をするリモート方式を行っているフジテックでは、技能伝承に活用し高い効果を挙げているという。
現場での「遠隔支援」は進んでいるようだが、今後、経団連の求めるパトロールのあり方は実現されるのか。今後の行方に目が離せない。