【主張】淘汰されるブラック企業
政府が閣議決定した改訂版の日本再興戦略で、わが国の労働環境を「世界トップレベル」に引き上げると謳ったが、いわゆるブラック企業が幅を利かせている現状では、とても現実味はない。
厚生労働省による監督指導をさらに強化して、良好な労働条件を維持している企業との間の不公平感を縮小する努力がまずは必要だが、一方でブラック企業が近年の社会環境の変化を受け、淘汰され始めている現実を直視すべきである。
一般紙報道によると、世間からブラック企業の烙印を押された居酒屋チェーンなどを展開するA社の業績が急落している。6月下旬に開催した株主総会での3月期連結決算報告によれば、上場以来初めて最終赤字に転落した。
当日、A社社長は「ブラック企業という風評が広まり、居酒屋の客足だけでなく、介護や食事宅配サービスの売り上げにも影響した」と自認している。ブラック企業という烙印を押されたことに対し、一生背負わなくてはならない「十字架」とまで語った。
A社は6年前、当時26歳の女性社員が、入社2カ月で自殺したのをきっかけにブラック企業のレッテルが張られてしまった。A社が過去にグループ社員に配布した理念集の中には、「365日24時間死ぬまで働け」などとする文言があったという。
若者を使い捨てにし、希望に満ちた将来を奪いかねないブラック企業は、デフレスパイラルの中で労働力が過剰だったころは、まだ存続の余地があった。しかし、安倍政権下での景気上昇、そして労働力不足に一転した今日においては、厚労省の監督指導にかかわらず通用しなくなり始めた。労働条件が厳しい外食産業において、労働力不足による店舗休業が広がっているのもいい例だ。
ブラック企業の存在は、解決しなければならない労働問題の1つというより、わが国社会の将来をも揺るがしかねない重大性がある。生産年齢人口の減少傾向が加速しつつある状況を受け止め、先進成熟国にふさわしい労働条件への転換が、経営上何より優先されなければならない。