【主張】的外れな「残業代ゼロ法」
政府が導入をめざしている「新たな労働時間制度」、いわゆるホワイトカラー・エグゼンプションに対し、多くの報道機関が未だに「残業代ゼロ法案」と別称している。
確かに、第一次安倍内閣での同制度の議論には、当初、「年収400万円以上」の労働者に適用すべきとする経営側の意見があり、この水準で制度化されるようなことがあれば「残業代ゼロ法案」と揶揄されても致し方ない。
しかし、今回の提案では「年収1000万円以上」という要件が設定される可能性が高く、大きく事情が異なってくる。実態的にみると、1000万円以上の労働者割合は多くても4%程度しかなく、極めて上位クラスの労働者層に限定される。成果で評価される職種に絞れば、さらに少数となろう。
しかも、想定される大手企業の課長、部長クラスのほぼ9割以上で残業手当は支給されていないのが実態だ。残業手当に代わって支給されているのが役職手当である。平成23年に厚生労働省が大手企業を対象に実施した調査を参考にすると、役付手当の水準は、部長級6万7300円、次長級6万7900円、課長級4万3100円だった。
労働基準法第41条2号に該当する「管理監督者」でない課長、部長クラスの労働者に残業手当を支払わなくてももちろん直ちに法令違反ではない。役職手当に残業手当のみなし分が含まれていることを明らかにしていれば問題ない。スタッフ職であってもライン管理職と同程度の手当が支給されているだろう。
こう考えると、制度の対象となり得る労働者層の仮に低位クラスであっても、ほとんどの場合、残業手当の代わりに比較的高額で定額の役職手当が支払われている。すでに大方は時間に連動した残業手当という形での支給はない。
「年収1000万円以上」の労働者層に限定して適用するという制度を「残業代ゼロ法案」と別称するのはほとんど的外れで、意図的なキャンペーンの意味しかない。上位労働者層にとっては、労働時間規制から外れて、仕事と時間の配分を自ら設定できる魅力の方が大きいはずだ。