【主張】労政審の位置付け明確に
厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会労働条件分科会では、近年、同分科会長の次のような発言をよく耳にする。「労働問題についての具体的制度設計については公労使三者で構成する審議会の検討を経るべきである」――。
同分科会長による度重なるこの意見表明は、厚労省が抱く危機感をそのまま言葉にしたものだ。労働法制の見直しにおいて、長年にわたってその中心的役割を担ってきた三者構成の労政審が、ややもすると軽視され始めている。
労政審軽視の傾向は10年ほど前、小泉政権時代から始まった。当時、経済財政諮問会議が骨太方針をまとめ、同方針に沿った労働法制見直しが進められたが、労政審において公労使の意見調整を経なければならない立法作業の仕組みに業を煮やしていた。一部に労政審無用論を口にする有力者もいたほど。
今日も当時と似通った状況にある。正面切って無用論を主張する者はいないものの、労政審を利害調整の場とする認識が持たれていることが、昨年発表された産業競争力会議の「中間整理」でもはっきり現れた。同中間整理では「労使の利害調整の枠を超えて、政府として経済政策と労働政策を一体的・整合的に捉えた総理主導の政策の基本方針を策定する仕組みを検討すべきである」と訴えていた。
確かに労政審を関係者の単なる利害調整の場としては、国民全体の批判の的になり、軽視や無用論に発展しかねない。国全体の政策の方向性に沿う労働政策を大局的な見地から企画・立案し、実情に合った具体策の検討を行うことが重要となっているからだ。
その意味で、今年6月に閣議決定した日本再興戦略の改訂版では、労政審の位置付けに1つの答えを示した。官邸側が、今後日本が進むべき方向や実行すべき政策についての大方針を定め、この大方針を実務的に補完する役割を労政審が担うことになった。
複数の政策課題において、具体的な制度設計や法的整備の詳細については明確に労政審に下駄を預けた。官邸主導と労政審の双方が両立するベストな役割分担が固まりつつあるといえる。