【主張】加速すべき限定正社員化
厚生労働省が昨年からスタートさせたキャリアアップ助成金が、当初の予想をはるかに上回る利用企業数に達している(本紙8月11日付け1面既報)。それも複数ある助成コースのうち非正社員を正社員や無期雇用に転換するコースでの利用が抜きん出ている。
最近の景気上昇と人手不足が1つの要因となっていることは否定できないが、他方で正社員と非正社員の垣根がようやく崩れ始めたとの見方ができそうだ。
今から20年ほど前、バブル崩壊に直面した日本企業は、当時の日経連が提言した「雇用ポートフォリオ」の考え方に沿い、長期蓄積能力活用型、高度専門能力活用型、雇用柔軟型の3類型に雇用システムを収れんさせていった。
”失われた20年”が終了するつい最近まで「雇用ポートフォリオ」の考え方が貫徹され、これによって雇用リスクの分散を図ってきた。
しかし、ようやくその呪縛から逃れ始めている。キャリアアップ助成金の利用企業が拡大しているのがその証左であるし、また厚労省が「多様な正社員」の普及・拡大を本格化させようとしていることも、経営者の心理をゆさぶっている。改正労働契約法で定めた有期雇用労働者の無期転換申込権の発生が視野に入ってきたことも見逃せない。徐々にではあるが、非正社員対策が浸透し、企業も受け入れつつある。
横河電機㈱の山崎正晴執行役員・人財本部長も、本紙「ぶれい考」欄(7月14日付け5面)で、「正社員と非正規社員を分けておくことの意味が失われた」ことが、「正社員化という新たな動きの底流にある」と語った。
正社員の労働条件を引き下げて、その分を非正社員の労働環境改善に回すべきという考え方が一部で主張されたことがあったが、正社員にしわ寄せが来るようでは改善の意味は大きく薄れる。今進められている非正社員の正社員化あるいは限定正社員化は必ずしも正社員の労働条件を犠牲にするものでなく評価できるもので、さらに積極化させていってもらいたい。長らく頭を悩ませた非正社員問題はやっと改善の緒につき始めた。