【主張】後がない指導者不足問題
令和4年度のものづくり白書は、能力開発や人材育成に問題がある事業所の増加傾向を指摘した(関連記事=指導担う人材が不足 製造業の能力開発で ものづくり白書)。製造業に限ればその割合は85%近くを占め、2001年度以降で最も高い数字となっている。具体的な問題点を尋ねた設問では、6割超が「指導する人材の不足」を訴え、4割台半ばが「育成しても辞めてしまう」というのだから、深刻だ。
大手製造業が国内の製造拠点を続々と海外へ移転させ、技能職の採用抑制に踏み切ってからすでに20~30年が経つ。その間に短大卒を一般事務職として採用するルートも衰退し、今や大学進学率は50%超にまで高まった。年代別の人員構成に今もゆがみを抱えるケースは多く、とくに製造現場は中堅層の人員に乏しい。チームを束ねる監督職にふさわしい経験年数を持つ人材は限られ、次世代の早期育成が求められてきた。
他方で高校新卒者の採用市場は近年、確実にタイトになっている。昨年度(令和5年3月卒)の選考および内定開始は9月16日だったが、同月末現在の内定率は62.4%に上る(厚労省調査。対象は学校およびハローワークからの職業紹介を希望する者のみ)。解禁直後に内定率が6割を超える傾向は、17年卒以来続いている。02~05年卒が4割に届いていなかったのと比べると、隔世の感がある。
1990年代初めには50万人を超えていた高卒の求職者数は、直近の23年卒で13万人を割り込み、約4分の1にまで減少した。求人数についても長期的には減少しているものの、近年はめだった増加傾向を示す。リーマン・ショック後はいったん20万人を切ったが、この十数年で44万人まで回復した。求人倍率は1.24倍から3.49倍に高まり、すでに90年代初めの数字を上回っている。
65歳までの継続雇用が義務化されて以来、製造現場は再雇用のシニアに頼ってきた。白書が引用する能力開発基本調査でも、技能継承の取組みとして5割超の企業が再雇用者を指導者として活用している。若手の確保・育成が喫緊の課題であると同時に、リタイアの近付くベテランに頼り続けるのにも限界がある。