【主張】困難な同一労働同一賃金
労働者派遣法改正案を審議していた衆議院厚生労働委員会で、「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案」、いわゆる「同一労働同一賃金推進法案」が並行して審議され、派遣法改正案と同時に採択された。この結果、今国会中に成立の見通しという。
同一労働同一賃金の実現は、厚生労働省においても従来から大きな課題と位置付けて検討してきたが、企業の大多数が各社固有の能力主義をベースとした賃金制度を運用しているわが国にとって、絵に描いた餅であり、理想論でしかないことを共通認識としなければならない。
同一労働同一賃金が通用するのは、職務給が主流の欧米企業に限られよう。純粋な職務給とは、それぞれの職務に賃金額を張り付けて運用するシステムで、その職務を遂行する労働者が誰かを問わない。極端にいえば、個別企業の枠を越えて、単一の職務給を設定すれば、全国の労働者が同一労働同一賃金となる。
しかし、日本企業の賃金制度の主流は、職能資格制度に基づく職能給である。つまり個々の労働者の職務能力の高まりを年々評価し、賃金を積み上げていくシステムだ。職能給は属人的で、長期にわたって運用すれば賃金額に格差が生じるのは当然である。
長期雇用を重視する日本企業にとって、職務能力以外の要素も重視される。象徴的には転勤や配転に耐えられる人材かどうかである。これによって将来への期待度も大きく違ってくる。
こうした様ざまな面を考慮すると、いわゆる正規社員と非正規社員との間には、賃金格差が生じざるを得ない。たとえ一時期に同じ職務を担当していたとしても、社内での役割の大きさや将来への期待度が異なる。同一労働同一賃金の実現は難しく、行政指導のしようもない。
今回の同一労働同一賃金推進法案は、「基本理念」を定めたもので、直ちに企業へ具体的対策を強いるものではないが、政府が3年以内に何らかの法制上の措置などを定めるという。企業努力を求める以上の法整備は考えにくいといえよう。