【主張】リスキルにも国庫負担を
政府は令和5年の骨太の方針と、「新しい資本主義」の実行計画の重点課題に、三位一体の労働市場改革による構造的賃上げの実現を盛り込んだ(関連記事=労働移動円滑化 モデル就業規則改正へ 退職金の減額見直し 政府・骨太方針を閣議決定)。個人への直接支援の強化を通じてリスキリングによる能力向上を促し、成長分野への円滑な労働移動につなげていく考えだ。
具体策として雇用保険制度の教育訓練給付の拡充などを挙げているが、雇用保険財政はコロナ禍の長期化によってすでにひっ迫している。教育訓練給付を活用したリスキリングを経済政策的に促進するのであれば、同給付への国庫負担の導入を検討しても良いのではないか。
雇用保険財政は、基本手当を含む求職者給付や教育訓練給付、雇用継続給付などの「失業等給付」、雇用の安定や能力開発に関する助成金支給などを行う「雇用保険二事業」、「育児休業給付」の3区分で管理している。コロナ禍では基本手当の支給が増えて失業等給付関係の収支が悪化。さらに、雇用調整助成金の支給が急激に増加した影響で、二事業の収支が大幅な赤字となって残高が底を突いた。失業等給付の積立金を二事業(雇用安定資金)に貸し出して赤字分を埋める状況が続いている。
その結果、令和元年度に4兆4871億円あった積立金は、3年度には1兆2460億円まで減少。4年度は、補正予算を組んで国庫から7000億円余りを追加注入したものの、積立金は約8500億円に減った。5年度は5300億円程度まで落ち込むことが試算されている。
実行計画に盛り込まれた三位一体の労働市場改革の指針では、教育訓練給付の拡充の方向性として、データアナリティクスや経営企画など、エンプロイアビリティ(雇用される能力)の向上が期待できる分野のプログラムに関する補助率・補助上限の引上げを掲げる。
ただ、教育訓練給付は求職者給付などとは異なり国庫負担がない。支出が大幅に増えれば、さらなる財政ひっ迫も懸念される。能力開発の促進施策とともに、財政安定化に向けた方策を丁寧に検討していく必要があるだろう。