【主張】ブラック企業には厳しい対応を
厚生労働省は、9月を「過重労働重点監督月間」とし、若者の「使い捨て」が疑われる企業への集中的な立入調査などを行っている。同時に、残業やパワハラなどの労働環境が悪い「ブラック企業」に対し、9月の1カ月間に4000社を対象とした実態調査を開始した。発表日がともに8月8日であったことでも明らかなように、両者は同じ視点に立った対応策である。
ブラック企業がにわかに浮上したのは、先の参院選で上位当選が確実とみられていた自民党公認の比例代表候補の外食産業オーナーが、やっとのことで滑り込んだことに起因している。このオーナー関連企業は外食チェーンと並行して、老人福祉施設を展開している。外食産業では賃金不払い残業問題、老人福祉施設では人手不足によって、基準に沿った介護を怠り、入居者を死亡させたあげく、その後の損害賠償などへの対応が極めて不誠実であったことが、週刊誌で叩かれ、ブラック企業と名指しされていた。
名ばかり店長問題、ブラック企業問題も直接的表現を避け、庶民にはにわかに分かりにくい。賃金不払い残業が常態化していれば、労働者から賃金の一部を搾取しているのだから、一般社会ではこれを「窃盗」というのではないか。気に食わない仕事を繰り返す部下に対し、管理職は「給料泥棒」と恫喝するが、成果はともかく労働を提供しているのだから、その代償として賃金をもらうのは当然。実際に賃金を支払わないことこそ、「給料泥棒」である。もっと直接的な表現を求めたい。
今回の取組みでも「是正指導」が中心になっており、司法処分は前面に出ていない。もっとも送検されても、裁判に進むのは氷山の一角で、過半は罰金徴収による略式起訴に終わっている。一般の刑事事件と異なり、労働基準法等の違反は、法に定める最低労働条件の履行確保を使命とするから、使用者に違反の事実を確認させ、是正するよう勧告するのが基本という。こうした姿勢では、ブラック企業に甘くみられるのは当然ともいえそう。30年以上経つ司法処理基準は捨て去ってはどうだろうか。