【主張】後れを取った金銭解決制
厚生労働省は、主に欧州先進諸国を対象とする解雇の金銭解決制度の運用実態調査を明らかにした。日本が相当に後れを取っていることが改めて実証された形となり、できるだけ早く欧州水準に追い付かなければならない。今後、労使による検討を急ピッチで進めてもらいたい。
解雇に正当な理由を必要とする8カ国(イギリス、ドイツ、フランスなど)すべてにおいて、不当解雇とされた場合、原職復帰(解雇期間中の逸失賃金支払いを含む)か、補償金または損害賠償による解決のどちらかを選ぶ権利を制度上認めていた。
補償金などの支払い基準や水準は各国バラバラだった。大方は補償金額を特定する具体的な算定方式を定めず、結果として支払額に幅を持たせているのが実態である。イギリスやフランスでは、最低保障額があり、オーストリアなどでは逆に上限額を定めていた。イタリアやスペインでは、勤続年数に重心を置いた算定方式を採用している。
しかも、いずれの国においても、別途、整理解雇時の補償金規定を有している。フランスのケースをみると、原則として月給の10分の1に勤続年数を乗じた金額を解雇手当として支払っている。日本の場合、割増退職金を支払う企業が一般的といえるが、もちろん法律上の義務ではないし、支給水準の目安もない。
日本は、どの国から多くを吸収すべきなのか。従来から参考としてきたのが、ドイツの「解消判決制度」である。過去に開催した労働法専門家による研究会が、解雇の金銭解決制度を検討する際に念頭に置いていたものだ。
ドイツの解消判決では、すでに労使間の信頼関係が崩壊し、「期待不能性」が立証された段階で金銭補償が命じられる。従って、単に解雇されたことのみでは、仮に労働者からの申立てであっても即座には認められない。
日本への導入を想定すると、裁判上で解雇無効となり、しかも労使間の信頼関係が損なわれたことが一つの要件とされる必要があろう。いかなる状態を信頼関係が損なわれたと評価するか、制度の根幹となってきそうだ。