【主張】使用者の年休指定に期待
厚生労働省は、使用者の「年休時季指定義務」の創設を労働政策審議会労働条件分科会に提案した。各種の労働時間規制緩和を打ち出す一方、長時間労働削減の決め手として浮上してきたものだ。これまでの年休権に関する法理を大きく前進させる画期的なアイデアだが、労働者の取得希望とどう擦り合わせるかが最大の課題となろう。
年休権は、労働者が6カ月以上勤続し、全労働日の8割以上出勤すると当然に発生し、労働者の時季指定によって具体的取得時期が決定すると解釈するのが通説である(二分説)。さらに計画年休は、本来、労働者の権利である時季指定を、過半数労組代表者と労使協定を結んだ場合にその計画した時期に与えることができる制度である。
計画年休は、同僚や上司に対する「気がね」など年休を取りにくい雰囲気をできる限り解消して、取得を促進させる狙いだったが、今日に至って取得率が4割台に留まり、十分な結果が出ていない。
そこで、今回さらに踏み込んで、使用者に「年休時季指定義務」を課す仕組みを打ち出した。労働者としては、堂々と年休取得が可能となり底上げできるとの思惑だ。
「年休時季指定義務」の対象日数を何日にするか、労働者が自ら十分な年休を取得している場合の扱いをどうするかなど、詳細な制度設計を詰める必要がある。
最大の課題となるのが、労働者の希望を聞く手続きだろう。年休の時季指定は、労働者の権利という考え方を一転させて、使用者が時季指定することになると、当然、労働者の取得希望との十分な擦り合わせなしでは運用できない。何らかの担保措置を講じないと、年休制度自体が大きく歪みかねない。
他方で、時季指定しないと使用者が法違反に問われることになれば、不利なのが小規模事業場である。労働者が少なければ、希望に沿った時季指定が困難となるからだ。
使用者の「年休時季指定義務」は、基本的に労使とも導入に賛同しているが、労働者の希望と職場内の取得調整を両立させていく仕組み作りはそう簡単ではない。