【主張】賃上げへの評価は慎重に
連合のまとめによると、定期昇給分などを除いた今春の「賃上げ分」は6000円弱、率にして2.12%に留まった。集計を開始した2015年以降で最も高い水準を示したものの、物価上昇分には及んでいない。昨年4月から今年3月までの年度平均でみると、消費者物価指数(総合)の伸びは3.2%増、実質賃金の算定に用いる「持ち家の帰属家賃を除く総合指数」は3.8%増となっている。
最新の毎月勤労統計調査(5月分速報)では、フルタイム労働者の所定内給与は前年同月比で2.2%増。持ち家の帰属家賃を除く総合指数は同3.8%増なので、仮に“実質賃金”を試算すると同1.5%減少しているのが分かる。30年ぶりの賃上げ水準は、物価変動による目減りを食い止めてはいない。
地域別最低賃金に関する議論が始まっている。7月12日には、第2回目安に関する小委員会が開かれ、例年どおり賃金改定状況調査の結果が報告された。30人未満の事業所を対象とする同調査は、もっぱら最賃審議に資するため、零細事業所の実態を把握している。
同調査によれば、今年1~6月に賃金引上げを実施した事業所の割合は43.5%。前年(36.9%)をわずかだが上回った。引上げ事業所のみで集計した平均改定率は4.3%と堅調で、前年(3.5%)から0.8ポイント伸びている。一方で回答事業所の4割弱が改定自体を実施せず(引上げゼロ)、引き下げた事業所も0.7%みられる。これらも含めた全体の平均改定率は1.8%で、引上げ事業所のみの4.3%とは、2.5ポイントもの開きがある。
地域別最賃の全国加重平均(961円)は、大台を目前に控えている。前年並み(31円増)なら1000円超えは来年になるが、今春の賃上げがどう評価されるのかは未知数だ。
中小零細事業所における賃上げ格差の実態はもちろん、コスト上昇分に対する価格転嫁率が47.6%(中小企業庁「価格交渉促進月間のフォローアップ調査」)に留まっている点なども重視し、慎重な審議をお願いしたい。