【主張】構造的賃上げにも目標を
岸田文雄内閣総理大臣は、新しい資本主義実現会議で地域別最低賃金に触れ、2030年代半ばまでに全国加重平均が1500円となることをめざす、と語った。仮に35年に1500円を超えるとすれば、今後は年平均で3.3%超の引上げが求められる。
1000円超えの達成を受けて“次の目標”に言及したものと思われるが、肝心の賃上げに関しては、主要企業の平均でようやく定昇込みで3%を超えたばかり。高卒初任給が25万円を超える未来について、いきなり思い描くのは難しい。
「誰もが時給1000円」をめざしてきた連合の芳野友子会長は、同日の会議に「ポスト1000円の中期目標」を求める意見書を提出していた。さらに、連合として掲げる“次の目標”については、1週間前の定例会見で「来月の海外調査なども踏まえて専門委員会などで検討していきたい」と話したばかりだった。首相に先を越された印象は拭えない。
長期的な視野から引上げの目標が示されることは、実務に携わる側には有り難い。他方で500円の大幅増を当面の目標に据えるなら、現在は200円を超す地域間格差の解消も、机上の空論ではなくなってこよう。果たして全国一律額をめざすべきなのか否か、あるいは特定最賃の存続をどう考えるのかなど、今後議論すべきテーマには事欠かない。
政府がめざすのは、最低レベルの時給が1500円まで高まり、かつての分厚い中間層が復活した姿だろう。ただ、継続的に初任賃金の引上げを迫られるなら、昇給原資に乏しい企業は偏向的な配分を選ばざるを得ない。本欄でも繰り返し主張してきたところだが、近年の急激な最賃引上げは、必ずしも平均賃金の上昇に結び付いていない。裏を返せば企業内の賃金カーブは、少しずつ歪みを助長されているのかもしれない。
最賃が現在の1.5倍に引き上げられるとき、平均賃金や実質賃金指数は一体どこまで上昇しているのか。政府に明らかにしてもらいたいのは、最賃ではなくむしろ構造的賃上げの目標だろう。