【書方箋 この本、効キマス】第33回 『内部告発のケーススタディから読み解く組織の現実』 奥山 俊宏 著/石川 慶子

2023.09.07 【書評】
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法廷闘争からみる実態

 内部告発者はとかく裏切り者として批判される風潮がある。ジャニーズ事務所の性加害問題について告発会見を開いた被害者も「売名行為だ」、「現役には迷惑」と批判に晒されている。本来であれば、組織の問題は内部通報機能が働き、外部に出る前に改善できる方が良い。それをめざし、日本においては2004年に内部告発者を保護する「公益通報者保護法」が法制化され22年には改正法が施行された。

 著者は本書の目的について「内部告発が社会にとって有用であり、内部告発者を差別せず、保護して守ろう、という発想と思潮、それに基づく法制度がどのように発展してきたのかをまず明らかにする。そのうえで、それら法制度の運用状況を具体例によって照らし出そうと試みる」とし、「歴史的経緯や具体例の教訓を前提に置いて、公益通報に関わる人の参考になるよう改正公益通報者保護法に解説を加えたい」と述べている。法律の説明は難しくなりがちだが、朝日新聞の社会部記者として多くの内部告発を受けた著者の体験に基づいているため、読者は体感的に読み進めることができる。とくに著者が自分の目で見た法廷でのやり取りは臨場感がある。

 本書は5つの章立てになっている。第1章では、米国、欧州における内部告発者保護の制度と進化、歴史を俯瞰しつつ、04年に日本で法制化された際にどのような経緯を辿ったのかを解説。さらに「誰のために働くのか」といった根本的な視点に立ち、告発者保護の背景にある企業不祥事の潮流を辿っているため、体系的に流れを理解できる。「不正そのものより、それを隠す行為の方が批判を浴びる。よって不正への対応が組織の存亡にかかわる」は危機管理に欠かせない重要な視座である。

 第2~4章は具体的なケースを取り上げ、第5章は、改正公益通報者保護法の詳説となっている。掲載されているケースは、オリンパス、レオパレス21、イオン、日本郵政、イトマンといった企業だけではなく、財務省、海上自衛隊、徳島県、市民生協、神社本庁など幅広い。判決についての著者の考えも参考になる。

 第2章は、内部告発が多発したオリンパス1社だけで構成されている。報復人事を受けた内部通報者が在職のまま会社を提訴し、実名で報道されて勝訴したケース。巨額不正経理が別の社員の匿名告発で報道されたケース。その調査結果を開示しようとした英国人社長が突然解任され、今度は社長が解任劇までの事の顛末をメディアに告発した。まさにさまざまな形の内部告発のオンパレードだが、教訓が多いともいえる。不正経理で逮捕起訴された元副社長が、「開示を何度も提案したが却下された」、「体も心もへとへと」、「自殺を図ったことも」、「あの時思い切って第三者に相談すればよかった」とする法廷での証言は、現場の苦悩を浮き彫りにすると同時に、通報制度を機能させることが最悪の事態の防止につながるとの考え方に説得力を与えている。広く深く理解できる実用的な内容だ。

(奥山 俊宏 著、朝日新聞出版 刊、税込2530円)

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日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 副理事長 石川 慶子 氏

選者:日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 副理事長 石川 慶子(いしかわ けいこ)
東京都出身、広報コンサルタント。著書に『なぜあの学校は危機対応を間違えたのか』など。

 濱口桂一郎さん、髙橋秀実さん、大矢博子さん、月替りのスペシャルゲスト――が毎週、皆様に向けてオススメの書籍を紹介します。“学び直し”や“リフレッシュ”にいかが。

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令和5年9月11日第3416号7面 掲載
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