【主張】転換促す“企業外”訓練に
非正規雇用労働者向けの職業訓練について検討してきた「公的職業訓練の在り方に関する研究会(座長・今野浩一郎学習院大学名誉教授)」が、報告書をまとめた(=関連記事)。企業内訓練や自己啓発の機会に乏しい非正規が、働きながらでも学びやすい制度を探っている。
長期勤続が期待される正社員に比べ、企業内で学べる機会が少ないのは必然だろう。1年契約を反復更新しながら、能力開発に投資してリターンを期待すること自体に無理がある。同研究会の報告書が引用する令和4年度の能力開発基本調査でも、過去1年間に正社員へOff―JTを実施した企業は70.4%に上るが、正社員以外の場合は29.6%に留まる。個人調査で自己啓発の状況をみても、正社員の実施率44.1%に対して、正社員以外は17.5%に過ぎない。
報告書では、非正規が主体的な学び直しを進めるためには、経済的制約、時間的制約、情報などに関する制約の解消が必要と指摘した。受講費用は無料または低廉な負担で済むようにし、“通学”不要なオンライン訓練、時間に縛られないeラーニングなどを活用しつつ、キャリア相談もできる体制を整えるよう求めている。
肝心の訓練内容については、デジタル分野に加えて地域のニーズを踏まえた分野、全国的にニーズの高い分野を選定すべきとした。訓練のレベルは、現行の離職者向けの職業訓練と同水準で、速やかな再就職などに必要なレベルが、適当としている。
一方、企業内で正社員転換を促す施策は、これまで必ずしも思いどおりには進んでこなかった。第三次産業を中心に正社員化が盛んに進められた際も、これはと見込んだ人材から固辞され、事実上「フルタイムで働けるか否か」を判断基準とせざるを得なかった感は否めない。
もっぱら非正規の在職者を対象とする新たな職業訓練は、来年度から試行される。報告書では「転職せずに現職でキャリアアップするケースも十分考えられる」としており、既存人材の正社員化を望む企業にとっても、活用しやすい仕組みを期待したい。