【主張】個人事業者の災害把握へ
厚生労働省は、建設業における一人親方など個人事業者が被災した業務上災害の実態を把握するため、個人事業者本人と直近上位の注文者に対して報告義務を課す考えだ。
個人事業者は労働安全衛生法の保護対象になっておらず、業務上災害の実態も十分に把握できていなかった。報告制度を新設し、効果的な安全対策の実施につなげる。
具体的には、被災した個人事業者自身が災害の発生を報告できる状況にある場合は、自ら直近上位の注文者へ報告する義務を課し、その報告を受けた注文者にも、労働基準監督署への報告を義務付けることを想定している。
ただし、報告を受けた注文者がその後、被災した個人事業者への発注を控える事態も懸念される。厚労省は現在、報告を行ったことを理由とした注文者による不利益取扱いの禁止を法令に規定する方向で検討している。報告制度の実効性を確保するためには、禁止規定の創設は欠かせないだろう。
個人事業者の業務上災害の報告制度については、昨年5月に設置した「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」のなかで、論点の1つとして議論されてきた。
厚労省が現在検討中の業務上災害報告制度は、休業4日以上の死傷災害(脳・心臓疾患を除く)を対象とするもの。報告主体は、被災した個人事業者が、災害発生の事実を注文者に対して伝達・報告することができる場合と、死亡または入院などのために報告できない場合とに分けて設定する。報告できる場合には、被災者本人に注文者への報告を義務付け、注文者には労基署への報告を義務化する。罰則は設けない。
一方、個人事業者が報告できないケースでは、原則として注文者のみに報告義務を課す方向だ。
報告制度によって国が集めた災害データは、個人事業者などが災害防止に役立てられるよう、分析して公表するという。業務上災害の減少に向けて制度が十分機能するよう、不利益取扱いの禁止をはじめ、個人事業者が報告しやすい環境の整備を求めたい。