【主張】手取り支援以上の活用を
厚生労働省が明らかにした「年収の壁・支援強化パッケージ」は、106万円の壁への対応策としてキャリアアップ助成金に新コースを設けるとした(本号1面参照)。賃上げや所定労働時間延長などの「労働者の収入を増加させる取組み」を行う事業主に対し、労働者1人当たり最大50万円を支給する。
ただ、最長3年にわたって求められる要件は複雑で、フルで助成を受けるためのハードルは低くない。そのうえ本人の手取り収入を減らさないように手当を支給した場合に、最大2年間、標準報酬月額を算定する際の対象に含めない仕組みを採り入れるとした。激変緩和機能を果たす“官製調整給”の存在は、実務においても無視できない。
いささか理解に苦しむのは、厚生年金・健康保険の加入者が増えるのにもかかわらず、なぜ雇用保険が財源に使われるのかだ。キャリアアップ助成金は、全額事業主負担である雇用保険二事業で運営されており、ただでさえコロナ禍における雇調金の特例支給が影を落とすなか、今後は社会保険料のフォローにまで使われることになる。昨年廃止された「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」を衣替えする発想なのかもしれないが、労使合意を得て企業が加入させるケースと、年収増で加入義務が生じたケースを同一視するのは難しい。
そもそも就業調整への対策であるなら、なぜ今?と問いたい企業も多いだろう。首都圏や主要都市周辺ではこの間、地域別最低賃金の高騰を受けて「社保未加入のまま働ける時間数」が漸減し、各社は対応を迫られてきた。就業調整の実態に関するデータは多くないが、厚労省が2021年に実施した調査では、有期雇用パートのうち過去1年間(20年10月~21年9月)に就業調整をした割合は17.8%、配偶者がいる女性に限れば26.4%となっている。
同助成金の目的は、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促すため、正社員化や処遇改善をした事業主を包括的に助成することにある。単なる手取り確保支援に終わらせず、キャリアアップに活かしてもらいたい。