【主張】三者構成での議論重視を
厚生労働省は9月27日、政府の全世代型社会保障構築本部において「年収の壁・支援強化パッケージ」が決定されたとして、10月から開始する施策の内容を発表した。その中には、雇用保険法施行規則の改正を必要とするキャリアアップ助成金の新コース追加が盛り込まれている(本紙10月9日号1面)。
省令改正は通常、公労使三者構成の労働政策審議会への諮問と答申を経て行う。ところが今回は、パッケージ実施の直前でも諮問しておらず、具体的な審議に入っていない。10月中に改正省令を公布し、10月1日に遡って適用する考えだが、労政審の軽視との誹りを免れないだろう。
パッケージは元々、政府が今年6月に閣議決定した「こども未来戦略方針」のなかで、「本年中に決定したうえで実行」するとされていた。9月25日には、岸田首相が経済対策に関する記者会見で、同一週内にパッケージを決定し、10月から前倒しして実施することを表明。手当の支給や賃上げを行った企業に対して、労働者1人当たり50万円を支給する助成金のコースを創設すると明言した。
翌26日に開かれた労政審の分科会で厚労省は、岸田首相の発言を受けた緊急的な報告事項として、キャリアアップ助成金への新コース追加を検討していることを説明。ただ、予算規模や助成内容の詳細、財源などについては具体的な言及を避け、パッケージ決定後に示すとした。
同助成金は、雇用保険二事業として運営されており、事業主が負担する保険料が財源だ。被保険者の失業予防などを目的とする二事業の助成金を、労働者の社会保険料の負担軽減のために活用するのは道理に合わない。
パッケージで示した3年にわたる支給要件も複雑で、同助成金による対応の是非や財源、支給のあり方など、審議すべき項目は多い。支援内容の決定・実施までに相当の時間を確保し、事前に十分な審議を尽くすべきだった。
労使を交えた労政審での今後の審議を経て、必要に応じて支援内容・要件の見直しを含む適切な対応が図られることを期待したい。