【主張】賃上げ格差防げる指針を
連合は、来春の交渉で前年を上回る賃上げをめざす姿勢を明確にした(=関連記事)。このほどまとめた基本構想で、定昇分を除く賃金改善分として「3%以上」を要求するとした。未だ価格転嫁を十分に果たせぬ企業には寝耳に水だが、実質賃金をプラスに反転させるためには、3%の改善でも心許ない現状にある。
今月発効された地域別最低賃金の改定に当たっては、引上げ率4.3%を基準に過去最高の目安額が答申された。4.3%という数字は、単純に前回の改定以降の物価上昇分を試算したもので、昨年10月から今年6月までの消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)の前年同月比(%)を平均している。いうまでもなく実質賃金指数の算定方法に則ったものであり、結果として法定最賃の“目減り”を防いだ形になっている。
仮に、来春の賃上げにも同様の考え方を適用するのであれば、現時点で目減り防止に必要な数字は3.8%と試算される(今年4月から最新結果の9月までの平均値)。10月以降の結果でこの数字はもちろん変動するが、3%を切るには年後半が平均2%程度で推移する必要がある。
賃上げの必要性は、毎月勤労統計調査からも明らかだ。実質賃金指数(現金給与総額)の前年同月比は最新の8月速報で2.5%減となっており、今年1月以降の推移をみても5~6月以外はマイナス幅が2%を上回っている。2022年平均の前年比が1.0%減だったことを思えば、状況はむしろ悪化した。“賃上げした企業の平均値”である春闘集計からはうかがえないが、規模間や労働組合の有無で小さくない格差が生じていることは想像に難くない。
連合の基本構想は、中小組合の要求基準を前年から1500円引き上げ、改善分を1万500円以上とした。加盟組合の平均賃金(約30万円)の3.5%に相当する額であり、中小労使には来春もギリギリの判断が求められる。政府が年内にまとめる「労務費の転嫁の在り方に係る指針」には、発注側に求められる対応を明記し、十分な価格転嫁を実現できる処方箋を期待したい。