【主張】配偶者手当廃止は慎重に
厚生労働省は「年収の壁・支援強化パッケージ」の取組みの一環として、配偶者手当の見直しを促すリーフレットを作成した(=関連記事)。支給要件に配偶者の収入を挙げているケースは多く、パートタイム労働者の就業調整の一因になっていると改めて指摘している。
昨年春に実施された人事院の調査によれば、配偶者に家族手当をする民間事業所の割合は5割を超え、そのうち84.1%に配偶者の収入による支給制限があった(回答事業所全体の従業員数ベースで集計)。具体的な制限の額については、103万円以下が5割弱を占め、130万円以下も約3分の1と少なくない。当事者にとって年収の壁は、所得税や社会保険加入と併せ、二重に“損失”を招くものになってしまっている。
属人的な手当の廃止は、支給目的が明確なだけに難しい。これが人事制度の改定なら物差しが変わったからだと説明もできようが、廃止は廃止でしかあり得ない。扶養の事実は変わらないのに、ただ生活費支援だけが打ち切られることになる。不利益変更を受ける当人たちから理解を得るのは困難であり、従来は十分な移行期間と緩和措置がとられてきた。
たとえば、2016年にトヨタ自動車が扶養手当制度の見直しを決めた際は、5年間の激変緩和措置が設けられた。結果的に翌年の労使交渉を経て「前倒し」されたが、当初のスケジュールでは配偶者への支給額を段階的に減らしつつ、新制度上の支給額(18歳未満の子等に一律1人2万円)まで引き上げていく計画だった。移行中は新旧両制度に基づいて個々人の扶養手当の総額を計算し、より高い方を支給する措置を続けていくことが予定されていた。
家族手当は本来、世帯主に生計費を保証する発想から、モデル賃金とセットで考えられてきた。ただし「30歳で2人(妻と子)を扶養」などとする設定はもはや標準とはいい難いし、収入制限を外す選択も本末転倒になりかねない。政府のお眼鏡にかなうべく、性急に配偶者手当だけを廃止するのではなく、給与体系全体のあり方を熟慮したうえ、慎重な判断を下したい。