【主張】労務費転嫁は労使交渉?!
構造的賃上げの実現をめざす政府は、労務費の転嫁に関する指針を公表した(関連記事=最賃上昇や賃上げを根拠に 労務費転嫁で指針 受・発注者へ12の行動示す 政府)。微に入り細を穿つ内容に対し、まるで労使交渉では? と感じる向きも少なくないのではないか。
当事者双方に定期的な交渉機会を持つよう促したうえ、発注者側には転嫁を求められたことを理由に不利益取扱いをしないよう示唆。さらに価格交渉に関する記録をつくり、双方が保管するよう求めた。指針に沿わない行為によって公正取引を阻害するおそれがあれば、公取委が独占禁止法や下請代金法に基づき、厳正な対処をするとも述べている。ある意味、ここまで必要なのかと驚かされる。
人事労務に携わる立場から見逃せないのは、発注者側に対し、今後の賃上げを念頭に入れた価格交渉であっても、協議のテーブルにつくように明記した点。転嫁の根拠については公表資料を示せば足りるとされたのと併せて考えると、転嫁を求めたり、求められるケースは増えるだろう。労使間で価格交渉が話題にのぼることも避けられまい。実際、同指針に対する連合・清水秀行事務局長の談話では、「2024春季生活闘争とセットで取り組むことを通じ、経済も賃金も物価も安定的に上昇する経済社会へとステージの転換をはかるべく全力を挙げる」などとしている。
同指針が根拠資料の例として挙げた今年度の地域別最低賃金の上昇率は、3.8~5.5%。民間主要企業の妥結額は1万1245円、率では3.60%となっている。一方で連合の来春の春闘方針は、賃金実態が把握できない中小組合の要求基準を前年から1500円引き上げ、総額で1万5000円以上とした。とくに前年の賃上げを渋った企業には、改めて物価上昇分の賃上げを確保するための選択が求められている。
晴れて取引価格の改定がなされたあかつきには、着実に労務費へ還元したい。すべての交渉が見積もりどおりにいくのでもない限り、調整は当然必要になるはず。仮に原材料費やエネルギーコストの転嫁を優先したなどと思われれば、従業員ばかりか発注者からの信頼も失いかねない。