【書方箋 この本、効キマス 濱口 桂一郎選集(2023年下半期)】『WORLD WITHOUT WORK』『経済学の宇宙』『現代中国の精神史的考察』ほか
労働新聞で好評連載中の書評欄『書方箋 この本、効キマス』から、2023年の下半期に公開した濱口桂一郎さんご執筆のコラムをまとめてご紹介します。
『WORLD WITHOUT WORK』 ダニエル・サスキンド 著
原題の英文を訳せば「仕事のない世界」となる。「AI(人工知能)で仕事がなくなるからBI(ベーシックインカム)だ」という近頃流行りの議論を展開している一冊だといえばそのとおりなのだが、日本で近年出された類書に比べて、議論のきめが相当に細かく、かつて『日本の論点2010』(文藝春秋)でBIを批判した私にとっても引き込まれるところが多かった。
『経済学の宇宙』 岩井 克人 著
著者は東京大学経済学部名誉教授であり、日経新聞からこのタイトルで出れば、偉い学者の『私の履歴書』みたいなものと思うのが普通だ。実際、生い立ちからMIT留学までは、貧しいながらも知的な家庭から東大に進学し、米国に留学する立志伝的な話。
『資本とイデオロギー』 トマ・ピケティ著
もう5年以上も前になるが、『21世紀の資本』がベストセラーになって売れっ子だったピケティの論文「Brahmin Left vs Merchant Right」(バラモン左翼対商人右翼)を拙ブログで紹介したことがある。この「バラモン左翼」という言葉はかなり流行したが、右翼のリベラル批判の文脈でしか理解しない人も多く、造語主ピケティの真意と乖離している感もあった。
『ゴースト・ワーク』 メアリー・L・グレイら著
2018年に当時リクルートワークス研究所におられた中村天江さん(現連合総研主幹研究員)のインタビューを受け、「日本ではジョブ型で騒いでいるが、世界ではむしろ安定したジョブが壊れてその都度のタスクベースの労働社会になるのではないかという危惧が論じられている」と語ったことがある。
『現代中国の精神史的考察』 栄 剣 著
次の台詞はどこの国のどういう勢力が権力掌握前に繰り出していたものか分かるだろうか。「民主がなければすべては粉飾だ」、「民主を争うのは全国人民の事柄だ」、「民主主義の鋭利な刀 米国の民主の伝統」、「思想を檻から突破させよ」、「中国は真の普通選挙が必要だ」、「民主が実現しなければ、中国の学生運動は止まらない」、「天賦の人権は侵すことはできない」、「一党独裁は至る所で災いとなる」、「誰が中国を安定させられないのか?専制政府だ!」。
『恋愛結婚の終焉』 牛窪 恵 著
岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を打ち出しても、人口減少の流れは一向に止まらない。結婚した夫婦の子育て支援に精力を注入しても、そもそも若者が結婚したがらない状況をどうしたら良いのか。この袋小路に「恋愛と結婚を切り離せ!」という衝撃的なメッセージを叩き込むのが本書だ。
2023年上半期分は、こちら。
選者:JIL-PT 労働政策研究所長 濱口 桂一郎(はまぐち けいいちろう)
83年労働省入省。08年に労働政策研究・研修機構へ移り、17年から現職。