【書方箋 この本、効キマス 髙橋 秀実選集(2023年下半期)】『馴染み知らずの物語』『奇想版 精神医学事典』『NHK短歌 新版 作歌のヒント』ほか
労働新聞で好評連載中の書評欄『書方箋 この本、効キマス』から、2023年の下半期に公開した髙橋秀実さんご執筆のコラムをまとめてご紹介します。
『新約聖書外典 ナグ・ハマディ文書抄』荒井献ら編訳
過日、妻がキリスト教系の病院に入院することになった。コロナ禍で面会も一切禁止。夫としてなすすべもなく、私はひたすら回復を祈るしかなかった。
『モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない』 マリー=フランス・イルゴイエンヌ 著
常日頃、生活態度について妻から叱責されている私は、てっきり自分がモラハラ(モラル・ハラスメント)の被害者だと思っていた。何しろ彼女の説教は明け方まで続くこともあるし、時として「出ていけ!」と怒鳴られる。
『横浜もののはじめ物語』 斎藤 多喜夫 著
私は生まれも育ちも横浜である。両親もそうなので生粋の「ハマっ子」ということになるのだが、日頃、それを意識することはほとんどない。そもそも横浜の地理にも疎く、妻を生家(中区)の周辺に案内しようとして道に迷ったこともあるくらいなのだが、このたび還暦を迎え、にわかに自分の故郷というか原点を学び直したく、本書を手に取ったのである。
『馴染み知らずの物語』 滝沢 カレン 著
ノンフィクションを生業とする私は、小説など架空の物語にあまり関心がない。人物が登場すると、つい「誰それ?」「仮名?」などと訝ってしまい、なかなかその世界に入って いけないのだが、本書は意外にもすんなりと読めた。
『奇想版 精神医学事典』 春日 武彦 著
通常、私たちは言葉の意味を調べるために辞書や事典を引くのだが、時として、そのまま読み耽ってしまうことがある。たとえば、『古典基礎語辞典』(角川学芸出版)は語源から解き明かされているので興味が尽きないし、異体字が多数収録されている『新大字典』(講談社)も、引くたびに前後の漢字が目に入り「こんな字があったのか?」と驚かされる。
『NHK短歌 新版 作歌のヒント』 永田 和宏 著
恥ずかしながら、還暦を過ぎて私は和歌に目覚めた。それまで和歌は学ぶべき古典にすぎなかったのだが、夕日を眺めている時にふと「あかねさす」という枕詞が口をついて出てきたのである。朝起きて、雨が降っていると「ひさかたのあめにしをるる」とか。
2023年上半期は、こちら。
選者:ノンフィクション作家 髙橋 秀実(たかはし ひでみね)
ノンフィクション作家。1961年、横浜市生まれ。テレビ番組制作会社のADを経て現職。主な著書に『はい、泳げません』、『ご先祖様はどちら様』、『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』など。最新刊に『おやじはニーチェ 認知症の父と過ごした436日』(新潮社)。