「絡まった糸ほぐす」存在に/中野幸恵社会保険労務士事務所 所長 中野 幸恵
開業登録をして20年、時々自分は何のために仕事をしているのか分からなくなり、開業当初の気持ちを思い起こすことがある。
労働者のために働きたいと資格を取り、自分も経営者になって分かったことがたくさんあった。
たとえば、経営者になるからといって労働法を勉強する場があるわけではなく、知らなくて当然であるということ。利益を求めるというのは、企業の存続や従業員の生活を守るということで、不可欠であること。無知であるがゆえに、インターネットで都合の良いワードを検索して得た偏った情報により、事業主を脅かすような労働者がいること。このようなことから、真面目に働いている労働者までが同一視されてしまうこと。本末転倒である。
あってはならないことではあるけれど、会社が倒産しそうになった時に何とか従業員を守りたいと思える経営者と、ギリギリまでこの会社で働きたいと思える労働者とが団結して働ける職場作りに協力したいと思っていた。
時代の流れがあまりに早く、「昔はこうだった」と、自分がされていたハラスメントをすることが後輩のためだと勘違いをしている人がいる。一方、仕事の注意をされただけでパワハラだという人もいる。最近はこのような話ばかりが聞こえてくる。
行政の入札による民間委託についても疑問を感じる。正社員化が推奨されているにもかかわらず、委託期間だけ従業員を採用し、次の入札で落札できなければ解雇することになる。次に落札した会社で同じ人がまた雇用されている。これでは正社員化はあり得ない。そのことを分かって民間委託しているだろうかと。反対に期間限定でも雇用を生んだという考え方もある。
一歩下がり、さまざまな方向から物事をみると、法律を作る国会議員はもちろん、経営者も労働者も、国民の三大義務を勉強するのと同様に労働法や社会保険法について知っておく必要があり、最低限の教育が不可欠であると感じている。
また、権利だけではなく義務についての教育も必要だが、昨今は権利ばかりが先行しているのではないかとの不安も感じる。
SNSに依存している者は、電話をすることさえも恐怖に感じている。受け取る側の感覚次第で、発信者の意に反して伝わることがある。些細な勘違いから、大きな亀裂を生じさせることもある。そう考えると、労使のコミュニケーションは必要不可欠である。私ができることは限られているけれど、絡まった糸があるならばほぐすために寄り添いたいと感じる。
中野幸恵社会保険労務士事務所 所長 中野 幸恵【広島】
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