【主張】労使協議の深化が重要に
経団連は、労働者のニーズと企業の実態に合った柔軟な働き方を実現するため、労使自治を重視したシンプルな法制度への転換を訴える「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」を公表した。
裁量労働制の対象業務を個別企業の労使が議論し、各社で判断・選択できる仕組みに変更するなど、十分な労使コミュニケーションなどを前提に、労働時間規制の「デロゲーション」(部分的適用除外)を拡大するよう求めている。労働者の健康確保措置を講じるとともに、制度趣旨に反した運用が行われていないかチェックできる体制が個別企業レベルで整っているのであれば、職務の実態をよく知る労使が判断するのは理に適っているといえるだろう。
提言では、労働者の価値観や働き方の多様化、DXの進展による事業内容の変化などによって、企業と労働者は大きな転換点に置かれていると指摘した。一方、労働基準法は、始業・終業時刻が固定的で、労働時間と成果が比例する労働者を前提とした画一的な規制になっており、職場実態をよく知る労使が多様な働き方を実現することが難しくなっていると問題視。法制度をシンプルにしたうえで、細部は労使自治に委ねるべきと訴えた。
たとえば過半数労組がある企業については、十分な労使協議を通じて、裁量労働制の対象業務を決定できるようにするのが合理的と強調。過半数労組のない企業では、民主的手続きを経て複数の代表者を選出し、新たな集団的労使交渉の場を設ける「労使協創協議制」の創設を提案した。
昨年10月に厚生労働省の「新しい時代の働き方に関する研究会」がまとめた報告書でも、多様な働く人の意見を吸い上げ、その希望を労働条件の決定に反映させるには、現行の過半数代表者や労使委員会の実効性を点検し、多様な集団的労使コミュニケーションのあり方を検討することが必要と指摘している。
労働法制を見直して労使自治に委ねる部分を増やすのであれば、多様な労働者の意見が確実に伝わる労使コミュニケーションの場の確保と労使協議の深化が前提となろう。