【主張】若手重視のベアは程々に
経団連は2024年版経営労働政策特別委員会報告において、「昨年以上の意気込みと決意をもって、賃金引上げの積極的な検討と実施を求めたい」などと企業各社に呼び掛けた。労組側ではすでに連合が、「前年を上回る賃上げをめざす」と要求指標に盛り込んでおり、ある意味で労使の方向性は一致している。構造的な賃上げの実現に向け、中小企業の賃上げと価格転嫁を重視している点も同様だ。
一方で賃上げの方法論については、両者のスタンスには相変わらず差異がある。
連合はあくまで月例賃金の引上げにこだわるが、経労委報告は「労使で真摯に議論を重ね、多様な方法・選択肢の中から適切な結論を見出すことが大切」とし、従来の姿勢を崩していない。むしろ23年度に初任給を大幅に引き上げた企業が相次いだ点に触れ、「初任給引上げは、賃金引上げの有力な選択肢となる」などとしている。
連合の経労委報告に対する見解には、その点に対する明確な反論はみられない。ただし、金属製造業の5産別でつくる金属労協は、「別途原資を投入すべき」と訴えた。経労委報告公表の翌日に示した見解では、「初任給など特定層に対する大幅な賃上げやそれに伴うカーブ是正の原資」について、賃上げ(ベースアップ)とは切り分けるべきと主張。賃金構造基本統計調査で14年以降の賃金水準をみると、若年層は上昇しているのに対し、中高年は低下しているとも指摘した。
物価上昇分に見合う一律の引上げが、必ずしも正解とは限らない。人事・賃金制度が未整備だったり機能不全に陥っている場合、賃金格差を温存してしまう手法は、職場の不満を助長することにもつながる。ベア分を確保したうえで、賃金配分の適正化を進める好機と捉えたい。
ただ、物価上昇下にもかかわらず新人や若年層だけに賃上げする選択肢は、よほどの高待遇企業でなければ無理がある。熟練を要する職種・職務を多数抱える業態ほど、ベアゼロ時代を支えてきた世代に配慮したい。若手の定着・成長を促すため、“育てる人への投資”にも配慮したい。