【主張】シニア処遇は社会的課題
経団連は、高齢社員の活躍推進に向け、担う職務・役割と整合性の取れた賃金水準を設定すべき――などとする報告書をまとめた。現状のさまざまな課題を指摘しつつ、シニアの活用は深刻さを増す労働力問題への対応の鍵になり、イノベーション創出や生産性の改善・向上にもつながると強調している。
60歳定年を前提に処遇ルールが完備されている大企業にとって、シニアの処遇改善は一筋縄ではいかない。経団連が昨年実施したトップマネジメント調査では、60~64歳層に関して「(59歳時点と)同じ賃金制度で水準も変わらない」と答えた企業は、1割強に過ぎなかった。65歳定年へ移行済みの企業でも、その割合は4割弱に留まる。
一方で60歳に達しても職務が変わらないとする企業は、9割近くを占める。職務を変えずに役割や範囲を変更することで、報酬とのバランスを図る企業が6割強を占めるのが現状だ。理屈としては同一労働同一賃金が成立するとしても、当人たちには選択の余地がないため、モチベーション維持が課題になるのは致し方ない。
労働力調査(2023年平均)によれば、正社員として働く60~64歳(勤め先で一般職員または正社員と呼ばれている人)は、男女計で190万人を数える。20年前の103万人に比べてほぼ倍となり、正社員全体に占める割合はその間に3.0%から5.3%まで高まった。
一方で60~64歳における正社員比率(役員を除く雇用者に占める割合)には、めだった改善がみられない。02年には44%あった比率は、13年4月の希望者全員の再雇用義務化を受けて36%台まで落ち込んだ。その後は徐々に回復しているものの、23年は42%となっている。30~40歳代では7割を超え、50歳代でも60%台後半という「現役」世代との差は、著しい。
今年は、5年に1度の公的年金の財政検証が行われる。ただし、70歳までの就業機会確保すら思うように進まないなか、制度改革の選択肢は限られている。シニアの処遇改善は、当人たちだけの問題に留まらない。