【主張】残りの5カ月有効活用を
厚生労働省は、今年10月からの社会保険適用拡大をにらみ、企業の人事労務担当者向けの手引きを作成した。経営陣や従業員に説明する際の留意点をまとめている。従業員51~100人の企業で働くパート・アルバイトにもいわゆる「年収106万円の壁」が生じることから、影響を受ける企業は、パートの働き控えを防ぐためにも、手引きを活用し、社会保険加入の利点を丁寧に説明しておきたい。
短時間労働者への適用拡大は、平成28年から企業規模に応じて段階的に行われてきた。対象は、一定規模以上の企業で働き、①週所定労働時間が20~30時間未満、②月額所定内賃金8.8万円以上、③2カ月超の雇用見込み、④昼間学生以外――を満たす者。昨年10月には101人以上の企業にまで拡大された。
厚労省は、今年10月の適用拡大を着実に実施するため、昨年9月に、企業や労働者への効果的な広報活動に関する専門家会議を設置。その議論を踏まえて作成したのが、人事労務担当者向け手引きだ。
手引きでは、新たに適用対象となる企業・労働者の範囲について図表を交えて分かりやすく示すとともに、従業員などへの説明時の留意点を紹介。給与計算システムや表計算ツールを活用して加入対象者を把握し、各労働者への説明状況や、加入希望などを管理することが有効とした。
手取りの減少を忌避して加入に消極的な従業員も少なくないため、たとえば若年層に対しては、私傷病で会社を休んだときに傷病手当金が、産前産後休業中には出産手当金が受け取れる点などを説明するのが良いという。高年齢者の場合は、ガンで長く休んだ際の傷病手当金の受給や、将来の年金額の増加などを説明する。厚労省が用意したシミュレーターを活用して、手取り額や年金額の変化を確認するよう労働者に促すべきとした。
10月の適用拡大を契機として、社会保険への加入を回避するために所定労働時間の削減を希望するパートが出てきてしまえば、企業の人手不足感はさらに高まる。適用拡大の対象企業は、残りの約5カ月間を有効に活用したい。