【主張】タイプ3普及で職務給に
初任給の大幅な引上げが相次ぐなか、富士通㈱は新卒採用にも「ジョブ型人材マネジメント」を拡大すると明らかにした(関連記事=学歴別初任給を廃止 30万円台でジョブ型採用 富士通)。2026年度入社から一律の初任給という考え方を完全に撤廃し、入社後に担う職務に応じて賃金を決める。文字どおり“即戦力”の獲得を狙うもので、採用した新人の月給は31.5万~38.5万円がボリュームゾーンになると見込んでいるという。
一昨年来、人手不足と物価上昇が相まって学卒初任給は急激に高騰しているが、20年度から「ジョブ型」への対応を進めてきた同社の動きは、単なる引上げと同列には捉えられない。すでに25年度入社でOPENコース(職種無限定)の募集をやめるとしており、26年度入社からは事前に職務を決めるだけでなく、賃金もそれに連動させる。ボリュームゾーンが30万円台になるというのはつまり、「従来の新卒より1つ上のグレードの職務」を任せられる人材を狙うことに他ならない。
こうした戦略を進める背景にあるのは、22年の三省合意によって見直されたインターンシップの活用だ。実施中に取得した学生情報を採用活動に利用できる「汎用的能力・専門活用型(タイプ3)」を使い、結果としてマッチングの前倒しを図る。未だ何者でもない人材の値段をただただ吊り上げるのとは、根本的なスタンスが異なっている。
過去30年間で大学進学率が約2倍に高まったにもかかわらず、売り手市場への偏向は留まることを知らない。最初の配属先を確約して採用することなど、就職氷河期の大手企業には考えられなかったことだろう。この間に新卒者の質が高まり、投資に見合う人材を安定的に獲得できているというならばともかく、人事担当者からは若手の早期離職を嘆く声が尽きない。
一律に引き上げた初任給に見合う成果が、果たして5年後、10年後に得られるのか。あらかじめ受入れ職務を示して募集する手法は、NECはじめ他の大手もすでに始めている。タイプ3の“就業体験”は早期離職の抑止にもつながり得るし、学歴別一律の初任給という慣行は、意外に早く変わるのかもしれない。