【主張】心理負荷評価表の確認を
厚生労働省の「令和5年度過労死等の労災補償状況」で、仕事によるストレスを原因とする精神障害の労災請求・保険給付支給決定件数が前年度比2~3割増え、ともに過去最多を更新した(=関連記事)。
昨年9月の精神障害の認定基準の改正で心理的負荷評価表が見直され、予見可能性が高まったことが一因とみられる。企業においては、業務上災害の発生をできるだけ回避するためにも、同評価表から、心理的負荷が「強」と判断されるケースを確認しておきたい。
見直し後の評価表(新評価表)では、心理的負荷をもたらす「具体的出来事」として、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(カスハラ)などを追加。さらに、「具体的出来事」の種類によっては、「強」「中」「弱」のうち一部の負荷強度においてのみ具体例を示していたところ、他の強度に該当するケースも明記した。
5年度の労災認定事案(883件)をみると、新たに具体的出来事に追加されたカスハラ関連は52件。他方、見直し前の評価表(旧評価表)で「強」の具体例を示していなかった「具体的出来事」については、業務上・外の判断を行った件数や、支給決定件数が増加しているものがめだった。
たとえば、旧評価表において「弱」のケースしか示されておらず、「『強』になることはまれ」と解説が加えられていた「自分の昇格・昇進等の立場の地位の変更」は、業務上・外の決定件数が4年度の2件から11件へと大幅に増加。4年度には労災認定された事案はなかったが、5年度には2件発生した。新評価表では、「強」の例として、「本人の経験等と著しく乖離した重い責任・きわめて困難な職責が課せられ、職場の支援等もなされず孤立した状態で職責を果たすこととなり、昇進後の業務に多大な労力を費やした」ケースを示している。
精神障害が労災認定されれば、安全配慮義務違反を問われるリスクは高まる。企業においては、負荷が「強」となる各ケースを確認し、そうした負荷を回避するための雇用管理上の措置を検討しておくことが望ましい。