【主張】日本型雇用の利点生かせ
長年にわたり「崩壊」が叫ばれてきた日本型雇用慣行が、実際には揺るぎなく存続していることが明確になった。評論家や学者でもない現実の日本経済を支えている経済界から聞こえてきた声である。
経済同友会(小林喜光代表幹事)がこのほどまとめた報告書によると、「複雑に絡み合った『岩盤』」である日本型雇用慣行は、「ほぼ原形のまま」に横たわっているとの認識を示した。過去20年間にわたって改革を提言してきたが、「残念ながら」達成できなかったという。
経済界からの見解を正面から受け止める必要がある。日本型雇用慣行は、当分の間、「崩壊」することがないとみると、一部改善に力を入れる外はない。孤立した島国で、世界的にみても独特な文化や感情を形成してきた日本に、欧米方式が適合しないのも明らかだ。今後は日本型雇用慣行を「崩壊」に導くのではなく、その『岩盤』を受け入れ、利点を積極的に生かす方向に舵を切っていくべきだろう。
大手マスコミなどが日本型雇用慣行の「崩壊」を声高に指摘し始めたのは、バブル崩壊後だった。以降、多くの大企業が職務基準の成果主義や年俸制を導入し、欧米方式に限りなく接近していったのは間違いない。これを捉えて日本型雇用慣行は「崩壊」したと即断してしまった。
しかし、現実は全く異なっていた。成果主義は、コスト削減と欧米企業への対抗手段として一部で導入したが、経営の根底には、雇用や労働組合を守り、社員の長期的成長に期待する姿勢に変わりはなかったのである。社員を路頭に迷わす行為は恥ずべきことという高度成長期に形成された不文律は経営者の心から離れなかった。
経済同友会は、改良ポイントとして、新卒一括採用の比率減、職務やミッションの明確化、転勤制度の柔軟な運用、年齢による一律退出制の廃止――を打ち出している。表面的改善に留まる印象が強いが、なかでも新卒一括採用を大幅に改めて個々の人材を最大限に生かす方向が重要だろう。独自の発想で成果を上げ再び世界から称賛される日本をめざしたい。