【主張】無視できない過労死大綱
政府は8月2日、過労死等防止対策大綱の変更を閣議決定し、従来、2025年までの達成をめざしてきた数値目標を延長した。たとえば週労働時間40時間以上の雇用者のうち60時間以上の占める割合は、改めて28年までに5%以下に減らすとしている。同大綱の策定当時14.0%だった割合は着実に低下してきたが、23年時点では未だ8.4%に留まり、さらなるペースアップが求められている。
23年度の労災補償状況をみると、業務における過重な負荷による脳・心臓疾患に係る労災支給決定(認定)件数は216件(うち死亡58件)で、心理的負荷による精神障害に係る支給決定は883件(うち未遂を含む自殺79件)に上る。さらに昨年の自殺者数約2.2万人のうち、勤務問題が原因・動機の1つと推定される自殺者は13.2%(2875人)を占める。原因・動機別にみると、最も多いのは「職場の人間関係」27.0%だが、長時間労働などを含む「仕事疲れ」も24.7%と少なくない。
一方、厚生労働省が昨年度、長時間労働の疑われる約2.6万事業場に行った監督指導結果では、違法な時間外労働を確認した割合は44.5%に及んだ。監督指導の対象事業場数は22年度に比べて約7000件減ったものの、違反率は1.9ポイント伸びている。個々の事業場内で時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数でみると、80時間を超える事業場の割合は全体の21.7%、100時間超は13.1%を占めている。
同大綱では、国が取り組む重点対策として「時間外労働の上限規制の遵守徹底」を掲げた。今春から上限規制が適用された建設事業、自動車運転業務などには、これまで以上に厳しい目が向けられよう。人手不足に悩む企業ほど、改めて個々の従業員の労働時間の把握が求められる。
中小企業における過労死発生のリスクは、今さらいうまでもない。訴訟となれば慰謝料等は数千万円に及び、社会的な信用の失墜は仕事を失うことにもつながる。長時間労働は採用・定着面でもマイナスに働くことを踏まえ、地道に働き方改革を進めたい。