【助成金の解説】業務改善助成金とキャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)/岡 佳伸
最低賃金の引き上げに対応、設備投資等を行って効率化
最低賃金の引き上げは、労働者の生活水準を向上させるために重要な政策の一つです。しかし、企業にとっては賃金コストの増加が経営に影響を及ぼす可能性があります。そこで、厚生労働省は企業が最低賃金の引き上げに対応できるよう、業務改善助成金を含めた制度を行っています、企業の対応として知る必要がある最低賃金の概要と最低賃金引き上げに関係する業務助成金とキャリアアップ助成金賃金規定等改定コースの概要、その活用方法について詳しく解説します。
最低賃金制度の概要
最低賃金制度は、労働者の生活を守るために国が定めた賃金の最低限度を指します。使用者は、この最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければなりません。最低賃金額以上かどうかを確認するためには、賃金額を時間当たりの金額に換算し、最低賃金(時間額)と比較します²。月給や日給により給与が決まっている場合も時給に換算して比較します。
最低賃金には、以下の2種類があります
・地域別最低賃金:都道府県ごとに定められ、産業や職種に関係なく適用されます。
・特定最低賃金:特定の地域内の特定の産業に適用されます。
地域別最低賃金は、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます。労働基準法上の事業場単位で把握します。例えば東京に事業場があり、北海道でテレワークを行っている労働者が居る場合は、北海道のテレワークを行っている場所が事業場と認められる独立性を持って居ない限り、東京都の最低賃金が適用されます。特定最低賃金は、特定の産業の基幹的労働者とその使用者に適用されます。
令和6年度の地域別最低賃金額改定の目安は、Aランク、Bランク、Cランクすべてで50円の引き上げが提案されています。これにより、全国加重平均は1,054円となり、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額となります。正式な額の決定は各都道府県で開催される地方最低賃金審議会で審議の元、答申、決定され、10月1日前後に発行されます。
業務改善助成金とは?
業務改善助成金とは、中小企業・小規模事業者が生産性向上に資する設備投資等を行うとともに、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成する制度です。
助成の対象となる事業者は、以下の要件を満たす必要があります。
・中小企業・小規模事業者であること
・事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること
・解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がないこと
助成の対象となる経費は、「生産性向上・労働能率の増進に資する設備投資等」です。具体的には、機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練などが挙げられます。
助成される金額は、生産性向上に資する設備投資等にかかった費用に一定の助成率をかけた金額と助成上限額とを比較し、いずれか安い方の金額となります。助成率や助成上限額は、申請を行う事業場の引き上げ前の事業場内最低賃金や引き上げる最低賃金額及び引き上げる労働者の人数によって異なります。
また、特例的な拡充が受けられる事業者もあります。例えば原材料費の高騰などで利益が減少した事業者は、助成上限額や助成率が高くなったり、関連する経費も助成対象となったりします。今年度の申請期限は令和6年12月27日、事業完了期限は原則令和7年1月28日になります。
受給のポイント
① 幅広い経費が対象になりますが、代理人(提出代行者、事務代理者を含む)に支払う経費は対象になりません。
② 物価高騰要件に関する特例事業者に該当すると生産性向上に資する設備投資等のうち、
・定員7人以上または車両本体価格200万円以下の乗用自動車や貨物自動車
・PC、スマホ、タブレット等の端末と周辺機器の新規導入が対象になります。
も対象になります。
③ 助成経費の対象が増える特例事業者に該当するためには、物価高騰要件(原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因により、申請前3か月間のうち任意の1か月の利益率が前年同月に比べ3%ポイント以上低下している事業者)を満たす必要があります。
④ 昨年度まで交付申請提出後に賃金を引き上げた場合が対象になります。また、最低賃金の引き上げ前に最低賃金の引き上げを見越して賃金の上昇を計画しても問題がありません。しかし、その場合は最低賃金の引き上げ時までに事業内賃金引上げ対象労働者実際に引き上げられた賃金で働いている必要があります。例えば、時給や日給制の人で9月30日に引上げを予定しているのに9月30日に働いていない人を対象にすることは出来ません。
⑤ 交付申請書提出後に事業内最低賃金の引き上げが出来ますが、設備投資等の経費支出、導入は交付決定後になります。ただし、業務改善に資する機器の発注は申請後であれば交付決定前でも構いません。申請後あれば試験的に無償で借り受けた機器(いわゆるデモ機)を使用して、交付決定後に契約を結び正式購入する方法でも対象になります
⑥ 前年度に業務改善助成金を活用した事業主も対象になります。ただし、同一年度に2回は活用できません。
⑦ キャリアアップ助成金賃金賃金規程改定コースとは併給調整がかかります。同じ人を対象労働者に選定することは出来ません。