【書方箋 この本、効キマス】第82回 『地面師たち ファイナル・ベッツ』 新庄 耕 著/大矢 博子

2024.09.19 【書評】
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リーダーの対応が焦点に

 Netflixで配信されたドラマ「地面師たち」が大きな反響を呼んでいる。7月25日の公開から先週まで、日本国内では6週連続1位の記録を樹立。グローバルチャートでも上位をキープし続けているのだ。

 原作になったのが新庄耕の小説『地面師たち』である。2017年に起きた、いわゆる「積水ハウス地面師詐欺事件」から着想を得たクライム・サスペンスだ。

 地面師とは、他人の土地の所有者になりすまして売却を持ちかけ、偽造書類を使って多額の金をだまし取る不動産詐欺集団のこと。小説内ではリーダーであるハリソン山中のもと、土地や売主について徹底した調査をする情報屋、売主のなりすまし役をキャスティングする手配師、なりすましに必要な書類を偽造するニンベン師、法律面を担当する司法書士、不動産会社やディベロッパーとの折衝を担う交渉役が集結。それぞれの専門性を活かして詐欺を遂行する様子が描かれた。

 コン・ゲームとしての面白さのみならず、もともと純文学作家だった著者による、人の心の闇を抉り出す筆致が大きな読みどころとなっている。

 その続編の『地面師たち ファイナル・ベッツ』が7月、刊行された。

 前作の事件のあと、シンガポールに潜んでいたハリソンが次のターゲットを決める。北海道だ。北極海航路が実現すれば寄港地となる釧路は大きく発展するとして、シンガポールの大手ディベロッパーの御曹司を罠にかけるのである。釧路の土地の額面は前作の倍となる200億円。詐欺師たち、御曹司、そして警察の視点を行き来しながら物語は進む。

 メンバーがそれぞれ何を担ってどう騙すかという手順は前作でみっちりやったからか、今回は不慮の事態にリーダーのハリソンがどう対応するが主に描かれる。これが興味深い。

 最初はIR(総合型リゾート)を誘致していた苫小牧を舞台にするつもりが、誘致がなくなったため急遽方針転換を余儀なくされたり、御曹司が急に契約をやめると言い出したり、利用した下っ端の身内がなんと警察関係者だったり。ヒグマに襲われたりもするのだ。だがハリソンはそんなときも慌てず、冷静に、かつ即座に対応策を打ち出していく。

 彼はタガのはずれた狂気の人物で、計画の邪魔になる者は容赦なく消していく。その残虐さや冷酷さには震えがくるが、人材を集めてグループをとりまとめ、不測の事態に対応しながら大きなプロジェクトを完遂する様子を見ると、リーダーとしては完璧なのだ。彼が上司だったら――いや、利用するだけしてそのあとは殺されちゃうだろうからやっぱり嫌だな。

 前作ではプロフェッショナルによる分業制の面白さ、今作では狂気のリーダーとそれに翻弄される人々と、趣が異なる。とくに今回は騙される側が良い人なのが辛い。なぜ簡単に騙されてしまうのか、その心理描写が秀逸なのだ。騙されるな、と応援したくなること請け合いである。

 また今作では臨場感あふれるラグジュアリーなカジノのシーンとギャンブラー心理の描写も魅力だ。クライマックスが豪華客船というのも良い。タイプの異なる2作、ぜひ合わせてお読みいただきたい。

(新庄 耕 著、集英社 刊、税込1980円)

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書評家 大矢 博子 氏

選者:書評家 大矢 博子

 レギュラー選者2人とゲストが毎週、書籍を1冊紹介します。“学び直し”や“リフレッシュ”にどうぞ。

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令和6年9月23日第3466号7面 掲載
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