【主張】奨学金肩代わりは慎重に
若手の採用難を背景として、奨学金の返済を支援する企業が増えている。日本学生支援機構の「代理返還制度」を利用する企業は、今年に入って2000社を超えた。小さくない債務を抱える新卒者には有力なアピール要素となるものの、ともすれば不公平感を招きかねない点には留意したい。企業にとっては社会貢献施策の一環だとしても、若手の目には単なる処遇差と映っても致し方ない。
そもそも個人の修学を経済的に支援する奨学金を、企業が“肩代わり”する理屈は説明しにくい。仮に属人的な手当として捉えるなら、学生時代に遡って生活費や自己啓発費用を負担していることになってしまう。同じ基準で採用したはずの新卒者の間に、処遇差を設けることは職務基準の考え方にもそぐわない。対象外となる若手のなかには、「学生時代の仕送り分は両親から無利子で借りていて、今も返済を続けている」といった例もみられるところだ。
未だ企業内で不平不満につながっているという話は聞かれないものの、今後どうなるかは分からない。これまでは大学生の約半数が貸与型の奨学金を利用する状況が続いてきたが、2020年度には国が主導する高等教育の就学支援新制度(授業料等減免と給付型奨学金)もスタートしている。今年度から対象範囲が一部拡充されたほか、来年度には扶養する子が3人以上いる「多子世帯」の所得制限が撤廃される。新卒者の多数が借金を抱えて社会人デビューを果たす現状が、いつまでも続くとは限らない。
企業による返済支援制度は、もともと採用強化よりも離職防止を図る意図が強かった。たとえばブライダル業大手の㈱ノバレーゼが2012年に導入した制度は、勤続5年、あるいは10年の節目を迎える際、未返済分を最高100万円まで一括支援する仕組みだった。即効性には欠けるものの、少なくとも早期離職者まで支援されるという不公平感は拭い去れる。
属人的手当や福利厚生は、新設するより廃止する方が難しい。若手の処遇改善は、目先の効果にとらわれず中長期的な視野で取り組みたい。