【助成金の解説】働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)/岡 佳伸
働きやすい環境づくりを応援
助成対象となる取組み
「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」は、中小企業が労働時間の短縮や年次有給休暇の促進に向けた環境整備を行うための助成金です。この助成金は、以下のような取組みを支援します。
① 労務管理担当者に対する研修
② 労働者に対する研修、周知・啓発
③ 外部専門家によるコンサルティング
④ 就業規則・労使協定等の作成・変更
⑤ 人材確保に向けた取り組み
⑥ 労務管理用ソフトウェアの導入・更新、労務管理用機器の導入・更新、デジタル式運行記録計の導入・更新
⑦ 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
※上記の取組の中で原則としてパソコン、タブレット、スマートフォンは対象になりません。
対象事業主
助成金の支給対象となる事業主は、労働者災害補償保険の適用事業主であり、交付申請時点で特定の条件(成果目標の①~③の設定に向けた条件を満たしていること、年5日の有給休暇取得に向けて就業規則等を整備している)を満たしている中小企業事業主(※1)です。
業種 | A 資本または出資額 |
B 常時使用する労働者 |
小売業 (飲食店を含む) |
5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業(※2) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
※1 AまたはBの要件を満たす企業が中小企業になります。
※2 医業に従事する医師が勤務する病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院については常時使用する労働者数が300人以下の場合は、中小企業事業主に該当します。
成果目標
成果目標は次の目標の内1つ以上の選択が必要になります。
① 全ての対象事業場において、令和5年度又は令和6年度内において有効な36協定について、時間外・休日労働時間数を縮減し、月60時間以下、又は月60時間を超え月80時間以下に上限を設定し、所轄労働基準監督署長に届け出を行うこと
② 全ての対象事業場において、年次有給休暇の計画的付与の規定を新たに導入すること(就業規則等に規定があるものの、労使協定の設定が無く実際に導入していない時も含みます)
③ 全ての対象事業場において、時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入し、かつ、有給の特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、新型コロナウイルス感染症対応のための休暇、不妊治療のための休暇、時間単位の特別休暇)の規定をいずれか1つ以上を新たに導入すること
助成額
以下のいずれか低い額(最大額730万円)
Ⅰ 以下1~3の上限額及び4の加算額の合計額
Ⅱ 対象経費の合計額×補助率3/4
常時使用する労働者数が30人以下かつ、支給対象の取組で⑥から⑦を実施する場合で、その所要額が30万円を超える場合の補助率は4/5
1.成果目標①の上限額
事業実施後に設定する時間外労働と休日労働の合計時間数 |
事業実施前の設定時間数 |
|
現に有効な36協定において、時間外労働と休日労働の合計時間数を月80時間を超えて設定している事業場 | 現に有効な36協定において、時間外労働と休日労働の合計時間数を月60時間を超えて設定している事業場 | |
時間外労働と休日労働の合計時間数を月60時間以下に設定 | 200万円 | 150万円 |
時間外労働と休日労働の合計時間数を月 60時間を超え、月80時間以下に設定 | 100万円 | ― |
2.成果目標②の上限額:25万円
3.成果目標③の上限額:25万円
4.賃金引上げの達成時の加算額
(常時使用する労働者数が30人以下の場合)
引上げ人数 | 1~3人 | 4~6人 | 7~10人 | 11人~30人 |
3%以上 引上げ |
30万円 | 60万円 | 100万円 | 1人当たり10万円 (上限300万円) |
5%以上 引上げ |
48万円 | 96万円 | 160万円 | 1人当たり16万円 (上限480万円) |
(常時使用する労働者数が30人を超える場合)
引上げ人数 | 1~3人 | 4~6人 | 7~10人 | 11人~30人 |
3%以上 引上げ |
15万円 | 30万円 | 50万円 | 1人当たり5万円 (上限150万円) |
5%以上 引上げ |
24万円 | 48万円 | 80万円 | 1人当たり8万円 (上限240万円) |
申請手続きのポイント
交付申請時点で、常時10人以上の労働者を使用する対象事業場については、労働基準法第39条第7項に基づき、時季指定の対象となる労働者の範囲および時季指定の方法等を就業規則に記載する必要があります(就業規則には各労働者の年次有給休暇5日取得義務に対応した文例が必要です)。一方、常時10人未満の労働者を使用する対象事業場においては、労働基準法施行規則第24条の7に基づく時季、日数および基準日を明らかにした書類(以下「年次有給休暇管理簿」という)を作成していることでも足ります(就業規則で規定されている場合も対象です)。
交付申請期限は2024年11月29日までとされていますが、予算の都合により締切り期限が早まる場合があります。
2023年度までは、「自己取引の禁止」として、提出代行や事務代理を行う社会保険労務士は助成対象の経費の支出先になることが出来ませんでした。2024度からは改正され、提出代行や事務代理を行う社会保険労務士も助成対象の経費の支出先として以下の取組みを行うことが出来るようになりました。ただし、必ず相見積りが必要となります。顧問契約を結んでいる先だからといった理由で相見積りを取らずに契約の相手方とすることは出来ません。
1.労務管理担当者に対する研修
2.労働者に対する研修、周知・啓発
3.外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など)によるコンサルティング
4.就業規則・労使協定等の作成・変更
5.人材確保に向けた取り組み
また、両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)との併給は可能です。特別休暇は有給である必要があり、現在無給の休暇がある場合は有給の休暇にすることも成果目標にできます。
上限額の引上げのための賃金加算については、最低賃金上昇時に行っても問題ありません。また、業務改善助成金の賃金上げ対象と重複しても問題ありません。
交付決定前に取組みに関する行為はできません。見積りの取得までとなります。
労働時間設定改善委員会等の議事録提出が必要であり、ひな形の提出は禁止されています。各事業場の実態に併せて討議する必要があり、開催時の写真の提出も求められます。ZOOM等のWEB会議でも問題ありませんが、メールやチャット等の文字だけの開催では要件を満たせません。
労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新については、時間工数の改善等具体的な指標で導入の必要性が分かる必要があります。
お勧めポイント
中小企業だけが対象の助成金です。就業規則の整備や労務管理担当者に対する研修等も対象に経費にすることができますが、相見積りの取得が必要となります。相見積りが取得し易い、機器の設備導入等に活用するのが良い助成金です。貨物自動車の購入にも活用できます。
スケジュール
・「交付申請書」を、最寄りの労働局雇用環境・均等部(室)に提出(締切:11月29日(金))
・交付決定後、提出した計画に沿って取組を実施(事業実施は、2025年1月31日(金)まで)
・労働局に支給申請(申請期限は、事業実施予定期間が終了した日から起算して30日後の日または2025年2月7日(金)のいずれか早い日となります。
筆者:岡 佳伸(特定社会保険労務士 社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表)
大手人材派遣会社などで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。
日経新聞、女性セブン等に取材記事掲載及びNHKあさイチ出演(2020年12月21日)、キャリアコンサルタント
【webサイトはこちら】
https://oka-sr.jp