幸せに働ける社会に/たざわ社会保険労務士事務所 代表 田澤 奈緒美
私の社労士としてのモットーは、「働くすべての人が幸せに」である。そんな私が今後の業務の軸としたいことの1つに、「ビジネスと人権」がある。私は全国社会保険労務士会連合会の「ビジネスと人権」推進社労士(BHR推進社労士)の1人である。
2011年、国連人権理事会においてビジネスと人権に関する指導原則が全会一致で支持され、ヨーロッパを中心とした諸外国では、企業に対し人権に関する取組みを求める法の制定が進んでいる。また、2020年、日本においても「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020ー2025)」が策定された。
このような世界の潮流から、日本でも「ビジネスと人権」に関する動きが加速している。しかし、「ビジネスと人権」という言葉は、なんとなく意味が分かりにくい。
そこで、ビジネス上の人権リスクにはどんなものがあるのか、具体的に考えてみるとイメージが湧きやすくなる。パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントは分かりやすい例だ。ほかにも、生活賃金に満たない賃金設定や、残業代の未払いもそうだ。
あるいは、重大な労働災害の発生は、人権に配慮した安全衛生環境といえるだろうか。また、過剰な長時間労働には、健康を害するリスクや、子育てなどを実質的に担えない、といった性別役割に関する問題がないだろうか。社会保険などの手続きが不適切であった場合、病気やケガ、失業等の場面で社会保障を受ける権利を侵害していないだろうか。
こう考えると、人権リスクはどんな企業にも存在することが分かる。また、その課題は社労士が日々直面する業務と密接に関係している。
人権リスクへの対応の不足が、罰金や訴訟、不買運動など、企業へマイナスの影響を与えることは想像しやすい。一方、人権尊重の企業活動によるプラスの側面についても着目すべきだ。私は、「ビジネスと人権」は中小企業のビジネスチャンスだと考えている。人権を尊重した企業活動は、採用における優位性を高めることや、従業員の離職防止につながる。他にも、新しい顧客の創出にも好影響があるだろう。なぜなら今後、調達先の選定において、人権に関する取組みを行っているかどうかは、重要な基準となるからだ。
「ビジネスと人権」は、企業とステークホルダー全体で、働く環境を良くし、人を大切にしようという考え方であると私は思う。「ビジネスと人権」への取組みを通じ、働くすべての人が幸せに働ける社会に貢献したいと考えている。
たざわ社会保険労務士事務所 代表 田澤 奈緒美【千葉】