【主張】在老見直し担い手確保を
就業調整は、パートタイマーの専売特許ではない。厚生労働省は、在職老齢年金制度の見直しの方向性を提示した(1面参照)。収入の多寡で年金を減額する仕組みは、シニア自身が好むと好まざるとにかかわらず、業務の質と量を抑える方向に働いてきた。人手不足を受けてシニア層への依存度が高まるなか、もう一方の障害だった年功的な賃金カーブは、各社の判断でバラバラに修正が進んでいる。
「賃金月額(賞与込み)+老齢厚生年金」が50万円までという現行の基準は、必ずしも高いとはいえない。厚労省が見直し案で示したモデルによれば、現役期に近い働き方を続けた場合の賃金月額は61.7万円で、これに加入期間25年以上の報酬比例部分の年金額=9.7万円を加えると、合計は約71万円に上る。標準的なシニアが現役時代と同様に稼ごうとしたら、支給停止は当然避けられない。
かつて年金受給が60歳からだった時代には、再雇用者の給与水準が年金を考慮して設計されるのは一般的だった。企業側にも現役時代と同様の貢献を求める意図は薄く、同じ業務を任せながら、短日・短時間勤務にしてバランスを図る。むしろ65歳までの雇用義務化の際に人事部が直面した悩みの1つは、「彼らに任せる仕事がない」だった。
ところが今や大手製造業の多くは、就職氷河期に採用を抑制したツケを支払っている。イビツな年齢構成ゆえに管理職の成り手は限られ、現場の世代交代は進んでいない。人材不足ゆえに定年後もポストオフを行使できず、賃金を抑制した再雇用者に対して、“自らのポストを引き渡す人材の早期育成”を命じるケースも散見される。
令和5年の高年齢者雇用状況等報告の集計結果によれば、定年を65歳以上とする企業(廃止企業含む)の割合は3割強に過ぎず、70歳までの就業確保措置を実施している企業は3割に満たない。そのうち、65歳以降も現役世代と争って働き続けられる企業となると、ほとんど中小規模に限られよう。担い手の高齢化が著しい業種・職種の賃金水準を踏まえつつ、早急な見直しを図ってもらいたい。