【書方箋 この本、効キマス】第91回 『妻に稼がれる夫のジレンマ』 小西 一禎 著/石川 慶子

2024.11.28 【書評】
  • list
  • クリップしました

    クリップを外しました

    これ以上クリップできません

    クリップ数が上限数の100に達しているため、クリップできませんでした。クリップ数を減らしてから再度クリップ願います。

    マイクリップ一覧へ

    申し訳ございません

    クリップの操作を受け付けることができませんでした。しばらく時間をおいてから再度お試し願います。

夫が転勤に同行の夫婦像

 著者は日本の中枢、永田町で働いていた政治記者であったが、米国勤務となった妻に同行するため、2児を連れて「配偶者海外赴任同行休職制度」を取得して主夫となった。現地でのストレスやキャリアへの不安から仲間を集める決意をし、米国滞在中の2018年に「世界に広がる駐夫・主夫友の会」を立ち上げた。発足時には4人だったメンバーは5年間で150人になったという。本書は著者を含む駐夫らが葛藤と決断、孤独と不安のなかから新しい価値観を身につけていく道筋を描いている。男性がキャリアを一時的にセーブして女性を支えていくとどのような夫婦となり、キャリア設計はどう変化するのだろうか。

 本書は7つの章立てになっている。第1章「令和の潮流、海外で妻を支える駐夫」では、「配偶者同行休業法」成立の歴史、女性の海外駐在員数推移、女性の収入増加といったデータから駐夫の誕生を解説。海外駐在員とその家族を取り巻く状況を俯瞰した。

 第2章の「キャリア中断の実態」では、日本人男性のキャリア中断の研究がないなかでの本書の意義を述べ、自らの問題意識を3つの視点から説明する。駐夫の意識は同行前、滞在中、帰国後でどう変化するか、中断によるキャリアへの影響はいかなるものか、帰国後のキャリア形成にはどのような効果があったか。

 第3章「葛藤の末、駐夫に転じる」では、調査対象者10人の最終学歴や職種(渡航前、渡航後)、渡航時の年齢や渡航期間、子どもの有無、現地就労などの基礎情報一覧を掲載。駐夫らの葛藤、孤独、不安の証言が紹介されている。稼ぐ能力を喪失した夫が妻と激しく衝突した生声がある。一方、海外で家事育児に専念する日々となり、生活が激変した駐夫らは、現地生活に慣れると新たな世界が価値観を持ち、自由に生きる道、スキルアップをめざすという。これが第4章「帰国を見据え、新たなキャリアへ」で描かれる。

 駐夫といった領域だけでなく、国内において経済力と社会的立場で妻より劣っている2人の男性へのインタビューが第5章「妻に収入で負けた時」で紹介されている。「ずるいですよね、育休を女性だけにとらせて自分だけバリバリ働く人って。育児にかかわる社会的コストをその女性がいる企業だけに負わせるわけじゃないですか」のコメントは、企業の人事部が着目すべき視点である。社会的コストとして考えると人的資本経営にもかかわってくる。将来このような比較がなされる可能性があるだろう。

 第6~7章「男性は何と戦うべきか」、「夫も妻も活躍する社会をつくるには」では、男らしさの呪縛とそのなかでの生きづらさ、幸福感の低い日本人男性といった現時点における課題を示した。最後に、夫婦で対話し、理解し尊重し合いながら互いにキャリアを形成して幸福を掴み取る心地良い生き方について体験談を交えて提言している。

 妻のキャリアを優先させた男性らが築き上げた新しい夫婦像を、日本社会が当たり前のこととして受け入れる時代はすぐそこに来ていると願いたい。本書がその推進力となるのは間違いない。

(小西 一禎 著、ちくま新書 刊、税込990円)

Amazonで購入する 楽天ブックスで購入する

日本リスクマネジャー&コンサルト協会 石川 慶子 氏

選者:日本リスクマネジャー&コンサルト協会 石川 慶子(いしかわ けいこ)
広報コンサルタント。最新刊に『ケースで学ぶ組織と個人のリスクマネジメント』。

 レギュラー選者2人とゲストが毎週、書籍を1冊紹介します。“学び直し”や“リフレッシュ”にどうぞ。

令和6年12月2日第3475号7面 掲載
  • 広告
  • 広告

あわせて読みたい

ページトップ
 

ご利用いただけない機能です


ご利用いただけません。