【主張】高齢者活躍へ安全対策を
労働政策審議会の分科会は安全衛生対策に関する報告書案をまとめ、高年齢者の労働災害防止に向けた作業環境の改善を事業者の努力義務とするよう提言した。背景には、高年齢労働者数とその労災件数の大幅な増加がある。
今後も生産年齢人口の減少が進み、雇用者に占める高年齢者割合がさらに高まることが見込まれる。企業においては貴重な戦力が労災で離脱することがないよう、努力義務化を見据えつつ、ヒヤリハット事例の分析などを通じて効果的な取組みを検討したい。
雇用者全体に占める60歳以上の労働者の割合は昨年、過去最高の18.7%に上った。10%程度だった平成16年から倍増している。休業4日以上の死傷者数全体に占める割合も年々上昇し、29.3%に達した。若年世代に比べて労災発生率が高く、災害発生時の休業期間も長い傾向にある。厚労省では、身体機能の低下といった高年齢者の特性が影響しているとみている。
一方で、高年齢者の労災防止に向けた企業の取組みを示した「エイジフレンドリーガイドライン」は、企業に浸透しているとは言い難い。令和5年の労働安全衛生調査では、ガイドラインを「知っている」と回答した企業はわずか23.1%で、うち何らかの労災防止対策を実施しているのは19.3%に留まる。
身体機能の低下に起因するリスクに対応するため、報告書案では、同ガイドラインで事業者に求めているような作業環境の改善や、適正な作業の管理などを努力義務とするのが適当とした。作業環境の改善措置などに関連し、厚労大臣による指針の公表も提案した。同指針に基づき、事業者に対して必要な指導・援助を行えるようにする。
現在のガイドラインでは、職場環境の改善の具体例として、照度の確保や段差の解消、補助機器の導入といった身体機能の低下を補う設備・装置の導入や、勤務形態・勤務時間の工夫など適切な作業管理を示している。
企業においては、努力義務化を念頭に、これらの対策のなかから自社で優先度が高いと思われるものを選択し、一歩ずつ対策を進めたい。