【主張】“時間外”の処分は慎重に
認定事実によればこの銀行員、とある支店の副店長で、勤務先の斜め向かいにある携帯電話販売店から、10日間にわたり計11個の洗剤を“頂戴”した。1回分に小分けされた洗剤は販促品で、「ご自由にお取りください」との掲示もされていた。
それがどうしてここまでの問題になってしまったかといえば、当該行為が販売店の営業時間外に行われたから。開店前にもかかわらず販促品を頂戴している瞬間が、防犯カメラにしっかり捕えられていたという。販売店の店長は「営業時間外の販促物の取得は窃盗だ」と主張し、銀行だけでなく、両店が入る商業施設側にも苦情を訴えた。
皮肉なことに当該行為は、二重の意味で“時間外”であり、販売店の営業時間外、銀行の就業時間外(通勤時)に行われた。銀行側に立てば、営業時間外であることは窃盗の根拠になり得るし、就業時間外(=通勤時)の私的行為である点は、処分の軽重を左右し得る。一方で販売店は被害届を出しておらず、刑事事件になっていない。はたから見れば“ご近所からの苦情”を受け、銀行が過剰に反応したという話になりかねない。実際、裁判所は「窃盗罪に該当し得る」と認めたが、懲戒解雇は重過ぎると判示した。
ちなみに判決文によれば、販売店の店長は銀行から度重なる謝罪を受けたにもかかわらず、「同じフロアにいると安心できないため、異動させてほしい」などと述べたという。仮にそれが処分の直接の原因になったとすると、銀行はカスタマー(?)の要求に応えんがため、私生活上の非行を理由に従業員をクビにした……と捉えられかねない。“時間外”を巡る処分には、やはり十分気を付けたい。