【主張】“時間外”の処分は慎重に

2024.12.12 【主張】
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 いつでも誰でも・・・・・・・ご自由にお取りください、とは確かに書かれてなかったろうが――。東京地裁で3月、通勤途上にある携帯ショップから販促品の洗剤を繰り返し“頂戴”した銀行員が、懲戒解雇され、地位確認を争った事案の判決があった(参考記事=イオン銀行事件(東京地判令6・3・8) 販促用の洗剤を持ち帰ったら盗んだとクビに!? 窃盗だが懲戒解雇重過ぎる)。なんでそれが懲戒事由に? と思わずにはいられない話だが、判決文を読み込むとさまざまな事情もみえてくる。

 認定事実によればこの銀行員、とある支店の副店長で、勤務先の斜め向かいにある携帯電話販売店から、10日間にわたり計11個の洗剤を“頂戴”した。1回分に小分けされた洗剤は販促品で、「ご自由にお取りください」との掲示もされていた。

 それがどうしてここまでの問題になってしまったかといえば、当該行為が販売店の営業時間外に行われたから。開店前にもかかわらず販促品を頂戴している瞬間が、防犯カメラにしっかり捕えられていたという。販売店の店長は「営業時間外の販促物の取得は窃盗だ」と主張し、銀行だけでなく、両店が入る商業施設側にも苦情を訴えた。

 皮肉なことに当該行為は、二重の意味で“時間外”であり、販売店の営業時間外、銀行の就業時間外(通勤時)に行われた。銀行側に立てば、営業時間外であることは窃盗の根拠になり得るし、就業時間外(=通勤時)の私的行為である点は、処分の軽重を左右し得る。一方で販売店は被害届を出しておらず、刑事事件になっていない。はたから見れば“ご近所からの苦情”を受け、銀行が過剰に反応したという話になりかねない。実際、裁判所は「窃盗罪に該当し得る」と認めたが、懲戒解雇は重過ぎると判示した。

 ちなみに判決文によれば、販売店の店長は銀行から度重なる謝罪を受けたにもかかわらず、「同じフロアにいると安心できないため、異動させてほしい」などと述べたという。仮にそれが処分の直接の原因になったとすると、銀行はカスタマー(?)の要求に応えんがため、私生活上の非行を理由に従業員をクビにした……と捉えられかねない。“時間外”を巡る処分には、やはり十分気を付けたい。

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令和6年12月16日第3477号2面 掲載
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