【書方箋 この本、効キマス】第95回 『色の物語 青』 ヘイリー・エドワーズ=デュジャルダン 著、丸山有美 訳/とに~
古代から現代の作品色々
美術を楽しむ第一歩。それはまず、好きな美術作品を見つけることです。しかし、そうは言われても、美術に苦手意識がある方にとっては、そもそも好きな美術作品を選ぶことすら難しいかもしれません。“あぁ、やっぱり自分には美術を観るセンスがないんだ…”なんて思わないでください。どんな方だって、服屋さんやインテリアショップで自分の好きな服や家具を選べているはず。形や価格、機能も大事ですが、その際決め手となったのはおそらく、色ではないでしょうか。色が綺麗だから。その色に惹かれたから。自分のラッキーカラーだから。それくらいに、色というのは好き嫌いの重要な要素。好きな美術作品を選ぶ際も、単純に色で決めてしまっても良いのです。
さて、数ある色の中でとくに「青」が好きという方にオススメしたいのが、フランスの美術家・モード史研究家のヘイリー・エドワーズ=デュジャルダンによる著書『色の物語 青』です。フェルメールブルーに北斎ブルー、ピカソの青の時代にイヴ・クラインブルーと、美術の歴史にはさまざまな「青」が登場します。なぜ、芸術家は青に魅了されるのか? 青は美術界にどのような影響を与えてきたのか? 古代エジプトから現代アートまで。「青」にまつわる美術作品を美しいグラフィックとともに多彩な角度からの解説で紹介する1冊です。
美術の解説本の多くは、テキストが小難しく、読むだけで顔が青くなりがちですが、こちらの本に関してはその心配はありません。それぞれの作品に対する解説は1ページ内に簡潔にまとめられており、登場する美術用語に対しての補足もちゃんとケアされています。また、有名どころの美術作品はしっかりと抑えながらも、幅広い美術のジャンルを網羅しているため、年間に750ほどの展覧会を巡っている自分でも知らなかった美術作品や情報が多々ありました。「青」に関してはまだまだ自分は青二才ですね。この本を片手に美術館を巡ってみようと思います。
なお、本ではゴッホの《星月夜》(MoMA)やセザンヌの《大水浴図》(ロンドン・ナショナル・ギャラリー)をはじめ世界各国の美術館の所蔵品が紹介されています。こんな素敵な作品があるだなんて羨ましい! と、隣の芝生が青く見えましたが、紹介されていた「青」の絵の中には、上野の国立西洋美術館が所蔵するジャン・マルク・ナティエの作品《マリー=アンリエット・ベルトロ・ド・プレヌフ夫人の肖像》もありました。国立西洋美術館には他にもたくさん名品があるので、正直なところ、ナティエのこの絵は今まで軽くスルーしていました。これほどまでに青が美しい作品が、こんな身近にあっただなんて! まさに青い鳥を発見した気分です。
青以外が好きな方もご安心を。『色の物語』シリーズは他に、「ピンク」、「黒」、「赤」が発刊されています。まもなく「金」も発売予定。いずれは「白」も取り上げて欲しいです。本当に200色あるのか知りたいので。
(ヘイリー・エドワーズ=デュジャルダン 著、丸山有美 訳、翔泳社 刊、税込3300円)
選者:アートテラー とに~
アートテラーは、「美術を面白おかしく紹介する職業」のことで、日本ではただ一人。著書に『名画たちのホンネ』など
濱口桂一郎さん、大矢博子さん、そして多彩なゲストが毎週、書籍を1冊紹介します。“学び直し”や“リフレッシュ”に是非…。