【主張】特別休暇より年休取得で
令和6年就労条件総合調査によると、年次有給休暇の取得率は65.3%にまで高まった。令和を迎えるまでは50%前後で推移していた数字は、過去5年間で約12ポイントも伸びている。罰則付きで義務化された「年5日の年次有給休暇の確実な取得」(2019年4月施行)が、着実な押上げ効果を発揮している。
同調査の年休取得率は、前年1年間に企業が付与した日数のうち、労働者が何日取得したか、を算出している。今回の調査では令和5年1年間が対象となっており、1人平均付与日数は16.9日で、平均取得日数は11.0日だった。同年5月をもって新型コロナウイルス感染症がⅤ類に移行したことを考えれば、コロナ禍の影響は限られよう。ある意味では“賃金よりも時間”の働き方改革=ワーク・ライフ・バランスが浸透し、あくまで平均的にではあるが、ライフの重みが増したといえるのかもしれない。
ここ数年、新卒採用市場はますます青田買いの様相を深め、一部の大手企業はインターンシップをより重視するようになった。参加者募集のタイミングに合わせ、初任給引上げを発表するケースも増えている。一方では“休みやすさ”で好待遇をアピールしようとする例も跡を絶たず、すでに「年間休日120日以上」は自慢にならなくなった。ITベンチャーなどではユニークな休暇を設ける例が散見され、推し活やペットの忌引きにわざわざ特別有給休暇を付与する企業まで現れている。
とはいえ、ホンネとタテマエは必ずしも一致しない。シフト制を採用する職場からすれば、年休取得は上司や同僚に負担を強いる行為であり、たとえば小売や飲食の大手では、年休の取得日数をパートタイマーの査定に用いるケースも珍しくない。そうでなくとも労働者間で年休取得率に小さくない差異がみられるなか、いたずらに特別有給休暇を増やせば、“ノーワーク同ペイ”を助長することになりかねない。
年休がなぜ理由不問で取得でき、かつ使用者の時季変更権がまず認められないのか、その重みが今後忘れ去られていくのだとしたら忍びない。