【主張】ベア原資は慎重に配分を
目安かつ労働運動であることを考慮しても、極めて高い水準といわざるを得ない――経団連の経営労働政策特別委員会報告は、連合が掲げた中小企業の賃上げ要求基準をそう断じた。物価上昇に対応し、規模間格差を縮小する社会的必要性は十分に承知していても、「1万8000円以上・6%以上」という水準はやはり高く感じる。
仮に平均賃金が30万円だった場合、1万8000円は労働時間にして概ね10時間分、残業代なら8時間分に相当する。人手不足に悩み、価格転嫁にも二の足を踏む企業が、そこまでの生産性向上を易々と実現できるはずもない。中小の構造的な賃金引上げの実現が不可欠とする経労委報告であっても、「目標は健全な労使関係・労使交渉の促進に資する水準である必要がある」とするのは当然だろう。
とはいえ、産業別労働組合は、続々と前年を上回る要求基準を決めている。春闘のけん引役を自認する金属労協は1.2万円以上のベースアップを掲げ、構成する5産別においても電機連合が1.7万円以上、基幹労連およびJAMが1.5万円以上などとした。この間、絶対額重視の姿勢を続けてきた自動車総連も、「統一要求額ではない」と強調しつつ、7年ぶりに基準額(1.2万円以上)を設定している。
流通・サービス業界の労組を多数抱えるUAゼンセンでは、賃金体系維持分(定昇相当分)を含めた総額で1万7000円以上を基準とした。パートタイム・有期雇用者については、昨秋の最低賃金改定に伴う引上げを含めずに、時給ベースで80円アップを求める。各産別は軒並み4%以上のベアを要求する方針を掲げており、労組がない企業には同規模、同業種の回答・妥結動向が見逃せない。
物価上昇を上回る大幅なベアに踏み切る際は、原資の配分に十分配慮したい。人材獲得を中途採用に頼ってきた中小企業では、往々にして意欲や能力の個人差が大きく、その差を適切に賃金へ反映する仕組みもない。安易に一律のベアや若手偏重のムードに流されず、貢献に応じた処遇差を確保する好機としたい。