囲炉裏のような組織に/いろり社労士事務所 代表 萩原 康介
「組織の活性化は、囲炉裏のようなものである」
これは、大阪のある運送会社の社長から学んだ経営哲学だ。
たとえば、社員が100人いる企業において、全員の心を均等に熱くするのは容易ではない。しかし、社長や幹部、管理職が囲炉裏の中心で熱を発し続ければ、その温もりは自然と周囲に広がり、囲炉裏端は心地良い暖かさを保つことができる。つまり、社員全員の熱量を一斉に高めようとするのではなく、中核となる人材を育成することが組織づくりの肝要である。
私が運送業の支援に注力するようになったのは、社労士になる前に、ある運送会社の経営者と対話したことがきっかけである。明確なビジョンを掲げ、業界や地域社会への貢献の必要性を語るその姿は、私がそれまで抱いていた「運送業の社長像」とはまったく異なっていた。
社労士として活動を始めてからも、全国各地の運送業の経営者から多くの学びを得ている。なかでも前述の「囲炉裏理論」は私のお気に入りで、ついには屋号に拝借するに至った。
いわゆる「2024年問題」への対応は急務であるが、それに限らず、解決すべき課題は山積している。とくに深刻なのが残業代の未払い問題である。
賃金債権の消滅時効に関する暫定措置が終了すれば、長時間労働や歩合ベースの曖昧な賃金制度を放置するリスクは格段に高まるだろう。また、ドライバーへの大型免許取得費用の貸付や、事故による車両修繕費用を巡るトラブルも少なくない。さらに、高齢化するドライバーの健康管理や、外国人ドライバーの増加も見逃せない。
運送業界では1990年代に規制緩和が進み、事業者数が大幅に増加した。そのころに新規参入した経営者が高齢化するなかで、事業承継前や承継後にコンプライアンスを改善したいという相談が増えている。しかし、何から手を付けるべきか分からない経営者が大半である。このような状況のなか、業界事情を理解した社労士のニーズは高まり続けている。
経営者や人事労務担当者は、まさに会社の「囲炉裏」といえる存在である。彼らと直接対話し、その想いや課題を共有することは、社労士としての大きな醍醐味である。囲炉裏に薪をくべ、火を燃やし続ける手助けができれば、これ以上の喜びはない。そして、運送業界を支援する社労士が一人でも多く増え、その火がさらに広がっていくことを願っている。
いろり社労士事務所 代表 萩原 康介【福岡】
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