人的資本経営が本格化/産学連携シンクタンク 一般社団法人iU組織研究機構 代表理事 松井 勇策(社会保険労務士)
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産学連携シンクタンク 一般社団法人iU組織研究機構 代表理事 松井 勇策(社会保険労務士) 氏
労働基準法の大改正が具体化しつつある。2023年から検討が進められ、今年1月には労働基準関係法制研究会が具体的な方向性を示す報告書を取りまとめた。この改正は、40年以上にわたって日本の雇用システムを支えてきた労基法を根本から見直すものとなる。
報告書の要所として、同一の場所で同じような働き方をする人々を一括して管理するという従来の「労働者」、「事業場」などの概念の元となる労働観の大きな変更が言及されている。
多様な働き方の促進を前提に、デジタル技術を活用してそれぞれの働き方を適切に支援していく新しい労働管理の枠組みの確立がめざされている。
この改正が示す方向性は、人的資本経営の全面的かつ本格的な展開を促すものであることは明らかだと思う。
報告書の枠組みは、一人ひとりの働き方を丁寧に把握し、その価値創造を最大化することを要請するためである。また、労使のコミュニケーションにおいて、個々の労働者との継続的な対話が重視される。これは、人的資本経営が重視する「従業員エンゲージメント」の向上と直接的に結び付く。
2021年ごろから人的資本経営支援にかかわっているが、いよいよ労務法務の分野全体に、人的資本経営との融合的な遂行が必須となる時代が到来したことを痛感している。注目すべきは、こうした方向性においては、裁判規範としてのコンプライアンスを重視する法曹とは完全に異なるアプローチが求められることである。
人的資本経営と労務法務を融合させ、企業の実態に即した戦略的な方策を考える必要がある。また、支援する社労士にもそういう技能が求められるのだと考えられ、アカデミズムとも法曹とも一線を画す、独自の知見を創造していくことが本格的に求められるのではないか。
また、このような変化は、企業規模を問わず、経営と人材の捉え方の見直しを迫るものといえる。現在の社会では、事業環境の変化への対応と少子高齢化への対応が、あらゆる企業において必須である。労基法の改正だけではなく、多くの政策・法令において変革と戦略性が必要な内容が増えている。政策・法令と人材戦略の実践知を活かした、さまざまな方法論の検証と発信に一層注力できればと考える。今や法改正対応や就業規則の改定においても、すべての実務機会に、経営の変革を推進・融合した考慮が必須になってきているのではないか。
産学連携シンクタンク 一般社団法人iU組織研究機構 代表理事
松井 勇策(社会保険労務士)【東京】
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